柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『しあわせのマスカット』  実在企業とのタイアップの癒着しかないステマ映画 ーーいやひとかけらもステルスしてないのでオープンマーケティング映画とでも呼ぶべきか

公式サイトより

しあわせのマスカット

プロデューサー 丹羽多聞アンドリウ
監督 吉田秋生
脚本 清水有生
撮影 鈴木周一郎
音楽 遠藤浩二
出演 福本莉子、中河内雅貴、ボブ鈴木、本仮屋ユイカ、田中要次、長内美那子、大久保聡美、森日菜美、村瀬美穂、土居裕子、長谷川初範、竹中直人

BS-TBSの丹羽多聞アンドリウ案件! といえば実在企業とのタイアップで癒着しかないステマ映画ーーいやひとかけらもステルスしてないのでオープンマーケティング映画とでも呼ぶべきかーーこれまでも東京PRウーマンでは広告代理店VECTOR、コスメティックウォーズでは化粧品会社アルビオンをとりあげ、露骨すぎて逆に会社にとってはマイナスじゃないかと思われるほどの清々しいまでのステマっぷりを見せつけてくれた。本作の舞台……というかタイアップ相手は岡山の和菓子屋宗家源吉兆庵、なんやえらいちっこいところ相手に商売してんな……と思ったが、実はさっさと海外にも進出し、本拠地岡山には美術館まで構えている有名菓子メーカーなのだった。知らぬこととはいえ、失礼いたしました。さて、その吉兆庵、岡山原産のマスカット・オブ・アレキサンドリアを材料に使った菓子「陸乃宝珠」が名物なんだそうで……

 

 

修学旅行で岡山にやってきた北海道の高校生相馬春奈(福本莉子)は財布をなくして大パニック。というのも病床の祖母が「……マスカット・オブ・アレキサンドリアを食べたい……」と銘柄指定してきたので岡山のデパートで高級マスカット、マスカット・オブ・アレキサンドリアを買おうとしたら財布を落としたことに気づいたのである。デパートで一房一万円也の高級マスカットを前に絶望する春奈。ポケットからかきあつめた小銭五百円ばかりで買えるものは……というんでてっきり一粒だけもらって……みたいな人情話になるのかと思いきや、岡山のデパートは冷たいので貧乏人は無視! あたりを見回した春奈の目に止まったのが宗家源吉兆庵の出店。マスカット・オブ・アレキサンドリアを使った和菓子が一個二百八十円也という庶民にも優しい値段であるのを見て二個購入。持ち帰って祖母に食べさせると「美味しいねえ」と涙を流して喜んでくれ、それが祖母が最後に食べたものになったのであった……わたしもこんな、人を笑顔にするような和菓子が作りたい!

というわけで高校卒業後、宗家源吉兆庵の入社試験を受けに来た春奈であるが、いきなり面接に大遅刻。実は道に迷ったおばあさんの案内をしているうちに自分も迷ってしまって……と言い訳にもならない言い訳をするが、「そういうときはこっちに電話一本でも入れるもんでしょ!」と当然の正論を言われてシャットアウト。なおも諦め悪く祖母と「陸乃宝珠」の思い出を縷々語ると、それを聞いていた面接官の社長(長谷川初範)がもらい泣きして特例で面接そして無理やり入社を決めてしまう! 社長は「仕事は教えれば学べる。でもひとつだけ、教えられないものを彼女は持っている。それは笑顔です!」笑ってすませばなんでもオッケーなのか! 当然ながら遅刻を知っていた同期入社からは「遅刻して入社できるなんて大人物ねー」とやっかみ半分で揶揄されているがまったく動じず笑顔の春奈である。

 

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