柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『総理の夫』 中谷美紀が史上初の女性総理になって国を滅ぼすホラー映画。何が謎だってこの二人の夫婦愛。映画の最初の一コマからわからない。

公式サイトより

総理の夫

監督 河合勇人
原作 原田マハ
脚本 松田沙也、杉原憲明
撮影 木村信也
音楽 富貴晴美
主題歌 miwa
出演 田中圭、中谷美紀、貫地谷しほり、工藤阿須加、松井愛莉、木下ほうか、関口まなと、米本学仁、国広富之、寺田農、片岡愛之助、嶋田久作、余貴美子、岸部一徳

中谷美紀が史上初の女性総理になって国を滅ぼすホラー映画である。百合子ブームあたりを当て込んで製作したようだけど、中谷美紀が演じるところの美貌で人気になる女性首相、世を滅ぼすサイコパスなポピュリスト政治家にしか見えなかった。こうした存在への危機感を新たにするという観点でのみ見る価値もあると言えようか。巨大財閥の御曹司だが実業にはまったく興味がなく鳥のスケッチを描くのが唯一の特技という朴念仁相馬日和(田中圭)の妻である政治家凛子(中谷美紀)がある日いきなり総理大臣になってしまったので大騒ぎ……というコメディ。何が謎だって、おそらくはこの物語のテーマであるところの夫婦愛である。この二人、お互いに何を求めて夫婦になったのか、映画の最初の一コマからわからない。

そもそも一週間北海道の東端まで珍しい渡り鳥の観察に行っていたあいだに少数政党を率いる若き女性党首の妻が総理になってしまい、何も知らなかった田中圭が大パニック……というんだが、仮に電話がつながろうがつながらなかろうが、自分の配偶者がそんな局面に立っていることをまったく気づきもしないって、妻に興味なさすぎだろう! 中谷美紀のほうも、「日和くん日和くん」と田中圭を猫可愛がりするだけで、相手が何をやろうとほぼ無関心。まるでペットでも飼っているかのような態度である。まあ田中圭の「鳥類研究」(という名のバードウォッチング)に関心持てってほうが無理だけど。それにしたって野心家で頭の切れる若い政治家と、頭が軽い大富豪のドラ息子という組み合わせなのだ。誰がどう見たってどす黒い思惑しか感じられない結婚ではないか。これを見て中谷美紀が純愛の慈母だと思うほうがどうかしている。で、大富豪の妻である「未来をあきらめない!」がキャッチフレーズのポピュリストが実行する政策が消費税大増税。消費税増税が経済を冷やすのはどんな政策的立場を取る人でもほぼ一致する見解だろう。これはまちがいなく国が滅ぶ……

 

 

都心のど真ん中に大豪邸を構えて住んでいる相馬日和、朝起きるとシジュウカラやヒヨドリの数をカウントしてご満悦だ。「出張出張~」と北海道の奥地に出かける直前、凛子から「ねえ、わたしが総理大臣になったとしったら、なにかあなたに不都合ある?」と謎かけをされるがスルー。珍しい渡り鳥を目撃してご満悦で帰ってきたら空港でマスコミに取り囲まれてびっくり。「奥様が日本初の女性総理になられる感想は?」とマイクをつきつけられるのだが、携帯も入らない田舎にいたのでニュースを知らず、目を白黒させている。そこに飛び込んで助け出したのが内閣の広報担当富士宮あやか(貫地谷しほり)。世間知らずの日和を叱りつけ、変なことをしないよう行動をコントロールするお目付け役である。以下、日和は財界の大物である母(余貴美子)にふりまわされ、凛子が率いる直進党と連立を組む政界の古狸原久郎(岸部一徳)がめぐらす陰謀の手駒にされたりと昼行灯な日々をおくる。劇中、日和が飼っているオウムが、彼の内心をすべて喋ってしまうというギャグがあるのだが、そもそも疲れたら「つかれたー!」、朝起きたら「気持ちいー!」と叫ぶ副音声男性なわけで。中の見えない人間の内心を喋ってしまうわけじゃないんでね。

 

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