柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『文禄三年三月八日』 カエルカフェ2022年の新作はマツケンこと松平健主演の時代劇!なんでマツケンがこんなところに出ているのか、それは誰にもわからない

公式サイトより

文禄三年三月八日

監督 秋原北胤
脚本・技術統括 落合雪江
撮影監督 ZIGEN
音楽 クリヤ・マコト
出演 松平健、瀬野和紀、咲良、咲樹、帆南、和泉元彌、DJ TAIJI、真砂京之介

 

ここ数年、横浜でカエルカフェ映画を見るのが年頭の儀式となっている。今年も変わらずやってきた横浜ジャック&ベティ。世間で何が起ころうと、パンデミックがこようがなんだろうか変わらず公開され続けるカエルカフェ映画。そういう世界もあるのである。カエルカフェ2022年の新作はマツケンこと松平健主演の時代劇! なんでマツケンがこんなところに出ているのか、それは誰にもわからないが、一日撮りで相応のギャラを提示されれば、あるいは? 本作でマツケンが演じるのは柳生石舟斎。堂々たるチャンバラ時代劇である。

 

 

柳生石舟斎とは柳生宗矩の父で十兵衛の祖父、柳生新陰流の流祖として知られる剣豪ということぐらいしか知らなかったが、もともとは松永久秀の家臣として武勇でならした武将であったという。だが豊臣秀吉のときに領地を奪われて困窮してしまう。だが、捨てる神あればなんとやらで、そこへ徳川家康が興味を示してくれる。徳川家康の前で「無刀取り」の極意を見せると、家康いたく感激して柳生流への入門を申し出て、石舟斎に同行した柳生宗矩を召し抱えた。かくして将軍家剣術指南役となった柳生一門は大いにさかえ、のちに拝一刀を陥れて死闘をくりひろげることになる。

そういう歴史を踏まえた上でのカエルカフェ時代劇。時は文禄三年、柳生石舟斎(松平健)は家康からの書状を受け取り、柳生流の極意を披露するため京都に向かうことを決意する。だが、それを聞いて怒った豊臣秀吉(DJ TAIJI)が石舟斎の抹殺を命じると、服部半蔵(和泉元彌)がすぐに手を挙げる。半蔵、柳生を「裏切り者」と憎んでいる伊賀忍軍を束ね、石舟斎の向かう先に次々に刺客を送りこむ。はたして石舟斎と若き宗矩(瀬野和紀)は無事に京都にたどり着けるのか?

……というとちゃんと聞こえるかもしれませんが、話はほぼこれだけ! つまりマツケンと瀬野の二人が延々と森の中を歩いていると、よくわからない格好をした忍者が襲ってきて、それを二人が斬り伏せ、チャンバラが終わると二人は先を歩く。そのくりかえし。脚本も何もあったものではない。まる一日の出来事をまさか本当に一日撮りではあるまいが、夜の場面になると本当に真っ暗で何も写っていないくらい。しかも、どういうわけか女性のキャストが多い。くのいち軍団の襲撃とかではなく、西洋人の殺し屋や黒田長政なども、意味もなく女性が男装していたりする。多様性を目指してのキャストなのか……?

いや、それがカエルカフェ映画である。

 

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