柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『大怪獣のあとしまつ』 すべての問いに沈黙で返し、クライマックスをはずし、アクションを見せず、観客の期待をはぐらかす。あとに残るのはひたすら徒労感

公式サイトより

大怪獣のあとしまつ

監督・脚本 三木聡
撮影 高田陽幸
音楽 上野耕路
出演 山田涼介、土屋太鳳、濱田岳、眞島秀和、ふせえり、六角精児、矢柴俊博、有薗芳記、SUMIRE、笠兼三、MEGUMI、岩松了、田中要次、銀粉蝶、嶋田久作、笹野高史、菊地凛子、二階堂ふみ、染谷将太、松重豊、オダギリジョー、西田敏行

文科省芸術振興基金補助

 

 

芸術振興基金の話にはもう飽き飽きしているのだが、これだけは言っておきたい。こんな映画に俺の払った税金を使うんじゃない! 東映+松竹という二大メジャーが組んだ映画に補助金が必要なのかという話である。完成して回収できる映画にしか補助金を出さない方針のせいでこんなことになっているのだが、何度でも言うが、こんなものに金を出すくらいならゴジの永遠に実現しない脚本製作に出資しろっていうの!

さて、最初に断っておくが、この原稿に答えはない。答えを期待している人には申し訳ないが、映画自体に答えがないのだからしょうがない。この映画はすべての問いに沈黙で返し、クライマックスをはずし、アクションを見せず、観客の期待をはぐらかすことがいちばんおもしろいと思っている人間が作っているからだ。結局のところ、作り手の意図は百パーセント完全に実現されているのだ。だから、世評で比較されるような歴史的な失敗作とは全然違うものである。問題はその「意図したもの」がひとかけらもおもしろくないということなわけで……

 

 

日本を破滅の淵にまで追いこんだトカゲ型大怪獣は死亡した。松竹と東映の合作なのに宇宙怪獣でも恐竜でもないの? そんなプライドはないんですよ。国防軍によるどんな兵器の攻撃もまるで効かなかった怪獣だったが、宇宙の彼方から飛んできた謎の光球を浴びて死亡したのである。神から授けられた奇跡に西大立目総理(西田敏行)は「デウス・エクス・マキナ……物語を解決するために強引に登場する……何やら似ていませんか?」と漏らす。いいですかこれ伏線ですからね! 怪獣は死んだのでそこで終わりで、以後その死体を後片付けするドタバタが描かれる。怪獣が暴れないのはいいでしょう。じゃあ後片付け、それがなんで大変なのか? デカイから? 怪獣が未知の生物で、ミサイルをも跳ね返す表皮の持ち主だから? 未知の病原体を持っているから? そうなのだが、だからといってそういうことが追求されるわけではない。だから答えはないのだ。三木聡がそんな答えを与えてくれると思ったほうが悪い。そういうわけで、そういう面白くなりそうな方にはいっさい突っ込まず、本気の死体処理シミュレーションがあるわけではなく、このあとのドタバタで繰り広げられるのはひたすら縄張り争いと功名争いである。実にもって終わるまで時間が長かった。

内閣直属の怪獣対策組織「特務」の帯刀アラタ(山田涼介)は友人のクラス会に出席するが、本部から呼び出されて中座する。追いかけてきたのが同じく出席していた雨音ユキノ(土屋太鳳)。「元カノに会うのは嫌だから帰るの?」とちょっかいかけてくるユキノである。後ほど明かされるのだが、二人は三年前まで恋人同士だったのだが、アラタは謎の失踪を遂げ、行方不明になっていた。そのあいだにユキノは首相の秘書官である雨音正彦(濱田岳)と結婚し、にもかかわらずアラタに未練たらたらという設定。何があってアラタは姿を消し、どういう思いでユキノが雨音と結婚したのか、その問いは……もちろん答えはない。正確に言うとアラタに何があったのかは最後の最後で明かされるのだが、それは知らなかったほうが良かった的な真実である。てか二年間行方不明で戻ってきた人間が組織で元の階級に戻れるのはなんで……もちろんその手のツッコミはすべて門前払い!

 

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