柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『世の中に絶えて桜のなかりせば』東宝の大スター宝田明の遺作。もっぱら乃木坂48目当てらしき若者のほうが客は多かったようですが

公式サイトより

世の中に絶えて桜のなかりせば

監督 三宅伸行
脚本 敦賀零、三宅伸行
エグゼクティブプロデューサー 宝田明
主題歌 all at once
出演 岩本蓮加、土居志央梨、郭智博、名村辰、柊瑠美、伊東由美子、徳井優、吉行和子、宝田明

 

去る3月14日に逝去したかつての東宝の大スター宝田明の遺作である。企画自体が宝田企画のもので、宝田明はエクゼクティブ・プロデューサーも務めている。遺作となって悔いなしというところだろうか。見に行ったときはもっぱら乃木坂48目当てらしき若者のほうが客は多かったようですが。

 

 

女子高校生の咲(岩本蓮加)は今日も学校を休み、終活アドバイザー「ハレノヒ」のアルバイトに出かけている(ウェブCMにまで出演して、同級生から何やってんだよ……と言われている入れ込みっぷり)。一緒に働いているのが快活な老人柴田(宝田明)。咲は柴田が会社の決められたマニュアルを守らず、勝手なことばかりしているとプリプリしているのだが、お客からは「マニュアル読んでるみたいですね」と図星の指摘。そもそもですね、この「終活アドバイザー」、マンションの一室に看板かけただけのオフィスで、不登校の女子高生がアルバイトでやっているのだ! いやあなた、不登校の女子高生に自分の死に方の相談をしたいと思う? 「終活アドバイザー」というのは顧客の話を聞いて、各分野の専門家を紹介するお仕事らしく、それなら女子高生でもできるだろうってことらしいんだが、そんなもんにわざわざ相談する意味ってある? 存在そのものが怪しさしかないんですよ。なにかそこんとこの説明があるかと思ったけど、もちろん何もなかった。で、「別に病気だとかそういう理由ではないのですが、仕事の都合で遺書を書かなければならなくなったんですが、書き方がわからないんです」というお客に対して、「遺書でしたら司法書士をご紹介できますが……」とマニュアル通りの回答しかできない咲。かたや柴田は自分が親からもらった白紙の遺書の話などしてなごませる。で、この「仕事の都合で遺書を書かなければならない人」どんな仕事だと思われますか? 思いつくといえばまずはPKOかなんかで海外派遣される自衛隊、じゃなきゃテスト・パイロットとか宇宙飛行士とか……じゃあそのどれかというとですね……

 

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