柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『バスカヴィル家の犬 シャーロック劇場版』 コナン・ドイルの有名な長編小説とは、ほぼ無関係なオリジナル! 自分は、なんでこんなもん見てるのかと悩んだよ。

公式サイトより

バスカヴィル家の犬 シャーロック劇場版

監督 西谷弘
原案 アーサー・コナン・ドイル
脚本 東山狭
撮影 山本英夫
音楽 菅野祐悟
主題歌 由薫
出演 ディーン・フジオカ、岩田剛典、新木優子、広末涼子、村上虹郎、渋川清彦、西村まさ彦、佐々木蔵之介、小泉孝太郎、稲森いずみ、椎名桔平

 

最初に、いちばんどうかと思ったことについて書いておく(必然的にネタバレとなる)。この物語、生き別れの親子が自分たちの不幸の原因を作った一家に復讐するという哀しい話なのだが、映画の最後で犯人たちのこもった家が地震で崩壊するのを見た探偵たち。

「まあ、最後は家族三人一緒だったんだから良かったんじゃないか」

 こんな心ないセリフある? ここまでたいがいでたらめなトリック、ご都合主義のプロット、人形のように動かされるキャラクター、感情の感じられない演技に辟易していたのだが、それにしたってここまで人の死を雑に扱える映画ってなんなのだろう? ここまで雑な奴が、犠牲者一人の生き死になんぞに拘泥するわけがないよね。本当に最悪やと思いましたわ。

 

 

そういうわけで誰も気にしない人間がバタバタと殺されてゆく本作、おなじみサー・アーサー・コナン・ドイルのシャーロック・ホームズシリーズの日本版であるドラマ『シャーロック』の劇場版である。またぞろカンバーバッジ版の二番、三番煎じか……と思ったが、これはドイルの本編中では名のみ語られて実際の事件については記述されていない事件をオリジナルで創作するという、ある意味シャーロキアンの妄想を具現化したようなシリーズだったのである(実際にどのぐらいうまくいっていたのかは、オリジナルTVシリーズ未見故に不明)。ところが劇場用映画となると原案『バスカヴィル家の犬』……ドイルのもっとも有名な長編小説ではないか。で、あの話をどう脚色するかと思ったら、ほぼ原作と無関係なオリジナル! 本気で、自分はなんでこんなもん見てるのかと悩んだよ。

舞台は瀬戸内海の小島霞島。島の大地主である資産家蓮壁千鶴男(西村まさ彦)からホームズ役の獅子雄(ディーン・フジオカ)とワトソン役の若宮(岩田剛典)に捜査の依頼がある。蓮壁の娘紅(新木優子)が誘拐され、身代金を要求される事件が発生した。だが、指定の場所に身代金を受け取るはずの犯人はあらわれず、紅も怪我を負うことなく戻ってきた。いったいなんのための誘拐だったのか? この事件の意味をネット通話で問いかけている最中、突然体に不調を覚えた千鶴男は(パソコン画面の中で)ばったり倒れて死亡する! 二人はさっそく霞島に向かう。

千鶴男の死因は狂犬病であった。日本では撲滅されたはずの狂犬病に? 実は霞島には「黒犬の呪い」という伝説があった。一家の墓を建てたとき、最初に犬の死骸を入れないと縁起が悪いとかで、やたらと黒犬を殺しまくったというのである。なので黒犬の祟りが……はいはい。千鶴男は蓮壁家の地所にある廃坑に設置した金庫に身代金を取りに行ったが、その帰りに足に怪我を負い、狂犬病に罹ったのだという。この「廃坑の金庫」、このあともたびたび問題になるんだが、なんでずっとそこに大金貯めこんでるのか。千鶴男は「銀行なんか信用できん! 警察なんか信用できん!」とか言ってる独立独歩の狂人なんだが、いくらなんでもご都合主義すぎるんじゃないのこの設定?

 

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