柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『ひまわりと子犬の7日間』-犬が回想する映画なんて『HACHI』以来だよ! (柳下毅一郎)

『ひまわりと子犬の7日間』

監督・脚本 平松恵美子
撮影 近森眞史
音楽 寺嶋民哉
出演 堺雅人、中谷美紀、でんでん、若林正恭、吉行和子、夏八木勲、左時枝、檀れい

文化庁文化芸術振興費補助

 

「でも、やるんだよ!」という有名なセリフがあるが、これを最初に言ったのは「しおさいの里」という捨て犬の保護施設をボランティアで運営しているオヤジである。無償で捨て犬の世話をする博愛の人であるオヤジだが無制限に引き受ける犬をちゃんと世話する能力も金もない。放置された犬たちにとっては野良生活以下の地獄絵図が広がっている。そんな中で、オヤジは犬用の餌皿を丁寧に洗い、ピカピカに磨き上げている。

「あんた、こんなことやるの無駄だと思ってるだろ? 水でちゃっちゃっと洗うだけでも変わらないって」
「え、いや、まあ……」
「そうだよ、無駄なんだよ、でも、やるんだよ!」

 すなわちこれは狂気に半分足を突っ込みつつも天から降ってきた使命をまっとうしようとする狂人の言葉なのであり、決して正気の人が言っていい言葉ではないのだ。さて、それで捨て犬と言えば……

宮崎県のどこか。老夫婦が子犬のときから愛情を注いで育てた一匹の犬がいた。だが老婆は死に、夫(夏八木勲)は老人ホームに入ることになる。去ってゆく老人を追いかけて、思わず綱を切って飛び出す犬……! だが車は速く、おりあしく雨が降ってきて臭いが消えてしまった。しかたなしに家に戻ってみると、すでに取り壊し工事中。作業員に殴られ追い払われ、すっかりトラウマになってしまった犬はトボトボと去っていくのであった。

元動物園の飼育員だった神崎(堺雅人)は、動物園閉鎖にともない保健所に職を求めた。同じく飼育員仲間だった妻には先立たれ、母親の力を借りつつ二人の子供を育てている。つねに気持ち悪い薄ら笑いを浮かべているので優しそうにも見えるが、嫌なことは何かと先送りにし、母親に咎められると逆ギレする自己中心的な男だ。娘には「捨て犬の里親を探す仕事だよ」と言いふくめているが、捨て犬の里親を求める期間は七日間と決まっており、それを超えたら殺処分が待っている。犬を殺したくない神崎は何かと理由をつけて殺処分までの時間を引き延ばし、上司(小林稔侍)に叱責されているのだった。

神崎は「可哀想じゃないですか!なんで人間の都合で殺されなきゃならないんですか!」とくってかかるが、上司は「税金使ってるんだから、納税者から苦情が出たら困るだろ。規則だ規則!」と命令する。規則一点張りで人情味のかけらもない上司が悪役なんだが、それ自体そもそもどうなのか。「七日間」と期限が切られているのは犬のために使えるリソースがかぎられているからではないか。その部分についてはなんの問題提起もなく、ただ人情だけで相手を言いくるめようとする神崎、どう考えても社会人失格。というかこいつのいうとおりにやってたらたちまち「しおさいの里」のできあがりだ。システム上の問題を人情にすりかえる。これぞ日本映画の得意技なのである。

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tags: でんでん どうぶつ映画 中谷美紀 吉行和子 堺雅人 夏八木勲 小林稔侍 左時枝 平松恵美子 文化庁文化芸術振興費補助 檀れい 犬プロイテーション 若林正恭

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