「ノンフィクションの筆圧」安田浩一ウェブマガジン

「人身売買」大国ニッポン 〜 外国人技能実習制度の現実<後篇>

独自入手した「研修生」の雇用契約書には、「自分の意思に基づき」、「基本賃金:1時間200円、残業手当:1時間300円」などと記載されていた(※当事件とは異なる会社のもの)

前篇よりつづく>

ドス黒い「研修ビジネス」の実態

 経営者から報告を受けた千葉県内のあっせん機関は、崔を「研修生として不適格」だと判断、強制的に中国へ帰すことを決めたのであった。

 同年8月18日。あっせん機関の役員らが養豚場を訪ねた。崔を成田空港に送り届けるためである。ただし、崔に事前に何も知らされていなかった。崔に伝えれば、その場でまた自殺未遂でも起こすかもしれない。だから何も知らせずに車に乗せ、成田空港で「観念」させるというのが、あっせん機関のシナリオだった。

 もちろん、そんな安っぽいシナリオ通りにことが進むわけでもない。「危険」を察知した崔は逃げ出そうとしたが、あっせん機関の役員や経営者に体を押さえつけられ、無理やり、車の中に押し込められそうになった。

 もみあいが続くなか、崔は近くの納屋へ逃げ込み、たまたま目についたナイフを持ち出すと、役員らを前にしてそれを振り回した。

「脅すだけのつもりだった」と後に崔は話している。

 だが、またもやもみあいが始まるなかで、崔が手にしたナイフは役員の腹部に食い込んだ。

 出血し、倒れ込んだ役員の姿を見て動転した崔は再び納屋に駆け込み、置かれていた農薬を飲み干して気を失った。

 これが事件のあらましである。

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