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「ヘイト本」出版社・青林堂の現役社員が出席、在特会との関係も明らかに! 「シンポジウム『ヘイト本』と表現の自由」現場レポート<前篇>

 

青林堂の現役社員も出席

 7月29日、「『ヘイト本』と表現の自由」と題されたシンポジウムが出版労連(東京・文京区)でおこなわれた。
 マイノリティへの差別と憎悪を煽る、いわゆる「ヘイト本」に対し、出版人として、どのように向き合うべきかというのが議論のテーマである。
 出版関係者の関心は高く、編集者やライターを中心に約100名の参加者があった。“盛況”であった理由のひとつは、ヘイトスピーチ解消法が施行されたばかりのタイミングでおこなわれたことだ。デマを流布させ、社会に分断を持ち込もうとしているのは、差別団体による街頭デモや、ネット上の書き込みに限定されない。出版業界もまた、需要に押される形で、差別扇動に加担してきた。過去に私が取材したなかにも、「嫌韓・嫌中」「反外国人」などの書籍から“知識”を得て差別デモの隊列に加わったとする者は少なくなかった。
 当然、業界内にもこうした状況を危惧する声は存在し、これまでにも「ヘイトスピーチと排外主義に加担しない出版関係者の会」(BLAR)などの団体が議論を重ねてきた。
 多くの人が集まったことには、もうひとつの理由がある。「ヘイト本」の送り手として知られる出版社・青林堂の現役社員の出席が事前に告知されていたからでもあった。この社員は労働条件を巡って個人加盟労組に加入、現在は会社側と争議状態にある。かつてコミック誌『ガロ』の版元として名をはせた同社も、経営上の問題によって社員が入れ替わり、いまや排外主義の旗振り役を務めるまでに路線変更を遂げた。今回のシンポジウムは、表に出てくることの少ない同社の内実を知る機会でもあったのだ。

 シンポジウムに先立ち、主催者を代表して出版労連副委員長・寺川徹氏が開会のあいさつをした。
 寺川氏はまず、ヘイトスピーチ解消法の成立を機に、あらためて議論の必要性が高まっているとしたうえで次のように話した。
「ヘイト本は人を傷つける。許し難い。そうした声は業界でも強い。だからこそ何らかの規制が必要ではないかといった意見もある。一方で、暴走する安倍政権のもとで、国家に規制を委ねてしまってよいのかという声も少なくない。難しい問題だ。私たち出版労連では、この問題を考えるワーキンググループを設置した。今日に限らず、今後も様々な立場の人と意見交換をしていきたいと考えている」
 同労連がヘイトスピーチの問題、とりわけ「ヘイト本」に対して、業界の“加害性”を認識したうえで、逃げることなく向き合ってきたことは大いに評価したいと考えている。私が知る限り、多くの編集者は「ヘイト本」について問われれば、当然ながら「ひどい」と口にし、「出版界も地に堕ちた」と嘆いてみせるものの、現状をどう変えていくのかといった点で考えを示す者は少ない。「どうしようもないのだ」と眉間にしわを寄せるだけで、ときに「食っていくために」と自嘲しながらヘイト本の制作に加担していく者もいた。そうしたなかで、同労連はこの問題と真摯に向き合ってきた。
 しかし、「ヘイト本」の存在に「表現の自由」を対置させる思考から、そろそろ脱却できないのものかと私は考えている。
 私にも明快な「答え」があるわけではないし、言うまでもないが焚書坑儒を期待しているわけでもない。だが、多様な言論を保障すべき出版人が、そもそも人間の多様性を否定するかのような出版物を出し続けてきてよいのか、といった問題意識は必要だろう。
 規制すべきか否か、といったことではなく、我々に社会を壊しているという自覚があるのか、そうした出版物をきちんと批判することができるか。出版界の具体的な取り組みこそが、いま、求められているのだと思う。

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