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沖縄に関する「デマ」の真相 2〜基地収入“依存”のウソ 記者も政治家も官僚も知らない「県民総所得に基地収入が占める割合は約5%」の事実

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「沖縄は基地で食っている」は本当か?

 沖縄に来ている。
 地元の記者たちと話をするなかで、やはり話題となるのは主に「本土」から向けられる沖縄への偏見だ。いや、デマといってもよいだろう。
 マスコミ関係者も含め、沖縄経済が米軍基地に依存していると思い込んでいる人は少なくない。
 沖縄は基地で食っている──そうした物言いに私も何度も接している。
「基地がなくなったら沖縄の人々はどうやって生きていくのか」「経済が立ちいかなくなる」。
 拙著『沖縄の新聞は本当に「偏向」しているのか』(朝日新聞出版)の取材過程において耳にしてきた言葉だ。
 米軍基地の固定化を正当化する文脈の中で使われる沖縄の”基地依存”は、いかにも俗耳に入りやすい。
 最近、東京支社での勤務を終えて那覇の本社に戻った沖縄紙の記者は「沖縄と東京の”温度差”に驚いた」とため息交じりに話す。
「記者仲間も、政治家も官僚も、いまだ沖縄の”基地依存”を前提としている人が多い。たとえば沖縄の県民総所得のなかで基地収入が占める割合を知っている人は驚くほど少なかった」
 なかには真顔で「50%くらい」と答えた人も、一人や二人ではなかったという。
 なにせ、来春から全国の高校で使われる教科書(帝国書院の『新現代社会』)でさえ、沖縄の米軍基地問題に関連して、「(沖縄)県内の経済が基地に依存している度合いはきわめて高い」などと記述するような状況でもある(同社は後に指摘を受けて記述を訂正)。教科書ですら、この論調なのだ。日本社会の認識も推して知るべしである。打ち明ければ、私も本格的に取材を始めるまでは正確な数字を知らなかったのだから笑えない。情けない話だ。
 沖縄県の調べによれば、2013年度における県民総所得は4兆1千211億円である。そのうち米軍基地から得ることのできる収入は2千88億円。
 つまり、県民総所得のなかで基地収入が占める割合は約5%である。
 これが”基地依存”といえるのだろうか。少ない数字でないことは確かだが、それでも”依存”というほどのものではない。

「基地収入」の7割は「思いやり予算」による負担

 基地収入に頼っていた時代は確かにあった。1950年代には上記の割合が50%近くに達したこともある。苛烈な地上戦の舞台となって街を焼かれ、米軍に土地を奪われ、日本国憲法も及ばない米軍統治下にあった沖縄で、これら基地収入に頼っていた時期が存在したことは当然だ。「本土」の高度経済成長とも沖縄は切り離されていた。破壊され、奪われ、経済基盤を失った人々にとって、生きていくためには基地で働くしかなかったのだ。
 これは本当の意味での「基地依存」なのだろうか。人々の選択によるものではなく、基地労働を強いられた末の結果でしかなかったはずだ。実際、基地建設が進むなかで労働者確保を迫られた米軍は、50年代まで各市町村に労務供出させていた事実もある。むしろ米軍の側が沖縄の労働力に「依存」していたことにもなる。
 生きていくために基地を生活の糧とする人々が存在し、基地を維持していくために沖縄の労働力を必要とする米軍の存在があった。
 こうした構造を理解することもなく「沖縄は基地がないと食っていけない」と訳知り顔で語ることは、現状認識が間違っているだけでなく、歴史を無視した物言いでもある。
 しかしその依存率も年々、低下している。日本復帰直後の72年には15.3%にまで減った。そしていまはその三分の一だ。

 ここでいう基地収入とは、大きく分けると次の4つである。

①米軍に提供している土地の賃貸料(軍用地料)
②基地で働く日本人従業員の給与
③米軍が日本企業に工事を発注したり物品を購入したりする調達費
④沖縄にいる米軍人、軍属とその家族が基地の外で買い物などをする消費の推計値

 ちなみに①の軍用地料と、②の日本人従業員の給与が、基地収入の7割を占める。この二つ、いうまでもなく支出しているのは日本政府だ。「思いやり予算」という名称で、我々が税金によって負担しているものである。米軍が自ら「落として」くれるものではない。

「花と水とパインの村」として観光客誘致に励む東村高江では、現在、米軍ヘリパッド基地建設反対の市民を排除するため、500人の機動隊が投入されている

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