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【無料記事】沖縄に関する「デマ」の真相 3〜 TOKYO MX『ニュース女子』が撒き散らす沖縄、在日ヘイトのフェイク・ニュース

『ニュース女子』に充満する沖縄、在日ヘイト

普天間飛行場の周辺で見つかったとされる「2万」と書かれた茶封筒を地元では名の知れた”基地建設賛成派”住民から提供され、「反対派は日当をもらってる?」「反対派の人たちは何らかの組織に雇われている?」といったテロップやナレーションが流された。「物証」はこれだけである。茶封筒がなぜ「日当」と結びつくのかの説明は一切なく、もちろん裏取り取材をした様子もない。疑惑が存在するのであれば当事者に「当てる」のが取材の基本である。

「呆れた話だ」ど不快感を露わにするのは、抗議活動の指揮を執る沖縄平和運動センターの大城悟事務局長だ。
「一部の団体指導者らに交通費などの実費が支給されることはあるが、ほとんどの参加者は自費で駆け付けている。日当などあるわけがない」
 ちなみに番組に「茶封筒」を提供した沖縄の保守系活動家・「ボギーてどこん」こと、手登根安則氏は私に対し「封筒は普天間飛行場近くで清掃中に拾ったものだが、日当だと断言したわけでもない」としたうえで、日当支給を示唆するかのような番組内容にも「私は構成に関わっていないのでわからない」と答えた。
 番組では人種差別に反対する市民団体「のりこえねっと」が、寄せられたカンパで高江に「特派員」を送ったことに関しても、「財源は何か」と、あたかもカネ目的の反対運動であるかのように報じた。「特派員」に選ばれて高江に出向いたことのある男性は、「支給されたのは5万円のみ。これで往復交通費、レンタカー代、宿泊費を賄えるはずもない。当然、足は出るし、特派員としてレポート提出の義務もある。金目当てならばバイトしたほうがよほどいい」。
 「財源」が市民からのカンパであることなど、特派員の募集要項などはいずれも公式サイトやネット番組で告知されている。しかも「のりこえねっと」によれば、番組側からの問い合わせ、取材は一切なかったという。

 他にも──
・反対派によって救急車による救護活動が妨害された
・警察の取り締まりが緩いのは、県警トップが(辺野古基地に反対する)翁長雄志知事だから
・反対派には韓国人や中国人ばかり
・本当は基地建設に反対する人は沖縄では多くない
 といったことが報じられたが、いずれもネットで出回る怪しげな話ばかりだ。

 救護活動への「妨害」については、高江地区を担当する国頭地区行政事務組合消防本部が「そうした事例はない」と明確に否定した。ちなみに番組でこのデマを飛ばした人物は、過去にも「反対派が軽微なケガでドクターヘリを呼びつけている」「(ヘリの)派遣要請が急増している」といった内容の文章をネット上に投稿している。一応、沖縄北部地域の航空医療活動を担当している「メッシュ・サポート」を訪ねて担当者に話を聞いたが、やはり「そのような事実は一切ない」と、ネットの書き込みを一蹴した。この1年間で高江方面にヘリが救護活動に向かったのは一度きり。ツーリング中のオートバイが事故を起こしたときだけだった。しかもドクターヘリは、自己当事者が「呼びつける」ことなどできない。あくまでも地域の消防本部の判断によって出動が決まるのだ。
 また沖縄県警幹部も「基地問題などにかかわる捜査方針は警察庁と調整、相談している」として、県知事の”影響下”にあることを否定した。県警トップの沖縄県警本部長は国のキャリア官僚で、知事に捜査を直接指導する権限などないことは、メディア関係者であれば知らないほうがおかしい。警察取材の経験を持つはずの番組MC・長谷川幸洋氏(中日・東京新聞論説副主幹)がこれに何の訂正も加えなかったことは首をかしげざるを得ない。
 さらに沖縄県民を対象とした各種世論調査では、辺野古基地建設に関して反対意見が賛成意見を大きく上回ることも知らなければ勉強不足もいいところだ。
 反対運動の現場に少数ながら在日コリアンの参加者もいるのは事実だが、そこに何の問題があるというのか。実際には米国の退役軍人など、世界各国から人が集まっていることは多くのメディアが報じている。ことさらに「韓国人・中国人」を強調するところに、人種差別的な視点が透けて見えよう。スタジオでは「北朝鮮が大好きな人もいる」と発言するコメンテーターもいて、”ネトウヨ的”言説が飛び交った。
 これらの指摘に対してTOKYO MXは1月16日の放送で「沖縄リポートは議論の一環として放送した」、「今後と様々な意見を公平・公正にとりあげていく」とする見解を発表、「今の段階でこれ以上にお答えできることはない」と答えるにとどまった。
 ちなみに実際に番組を制作したのは化粧品販売大手・DHCグループ傘下の「DHCシアター」と、『そこまで言って委員会NP』(読売テレビ)などの番組制作もしている「ボーイズ」の2社である。両社ともに保守系文化人を起用した番組づくりでは“定評”ある制作会社だが、現在まで私の取材(今回は『AERA』編集部を通した)には応じていない。その代わり「DHCシアター」は同社の公式サイトで見解を発表。各方面から指摘されている「取材しない」姿勢に対しては、「基地反対派の言い分は聞く必要がない」と表明した。「様々な意見を公平・公正にとりあげていく」としたTOKYO MXとは真逆の見解を示したのである。
 ほかにも関係者のすべてが取材に無回答であったが、現在、あらためて取材を進めているところだ。
 番組中、「何者?」「反対運動を先導する黒幕の正体?」などと名指しとも読める形で中傷の対象となった辛淑玉さんは、「沖縄と在日コリアンを公開処刑するかのような番組だった」と訴えた。
「徹底的に中傷し、貶め、憎悪を扇動する。おそらく、それ自体が番組の目的だったのでしょう。つまり取材など必要なかった。確信犯ですよ」
 そしてBPOに対し人権侵害の申し立てをおこなったのである。
 申立書では「(申立人の辛淑玉さんが)テロ行使、犯罪行為の『黒幕』であるとの誤った情報を視聴者に故意に提示した」ことで、名誉が傷つけられたと記されている。
 衆議院第二議員会館でおこなわれた会見でも、辛さんは次のように話した。
「事実確認のための最低限の取材も怠ったまま高江ヘリパッド建設反対運動参加者らを誹謗中傷するものであった。放送倫理を著しく逸脱している」
「彼らは笑いながら私を名指しし、笑いながら沖縄の人を侮辱した。そのなかで黒幕とされ、親北派といわれ、運動でメシを食っているといわれ、私がわけのわからないところから集めた金で過激派を送り込んでいるといった文脈だった」
 その通りだ。
 『ニュース女子』は取材を放棄した手抜き番組であったと同時に、沖縄ヘイト、在日ヘイトに満ち満ちたものであった。
 一方的な幕引きなど絶対にさせない。
 沖縄を取材する一人として、私はデマの火元をとことん追いかけるつもりだ。

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