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【無料記事】昔は『ガロ』、今は「ヘイト本」の青林堂パワハラ事件・提訴記者会見詳報

「青林堂には、せめて常識的な会社になってほしい」

 裁判に至った原告側の主張は以下の通りだ。
 中村さんが青林堂に入社したのは2001年。マンガ好きの中村さんは『ガロ』に憧れていたという。03年まで同社の営業部長を務めたが、待遇面などでの不満もあり、いったん退職する。
 蟹江社長に誘われ、同社に復職したのは14年6月のことだった。
「半年間の使用期間を経て正社員にする」という約束であったが、半年が過ぎても正社員になることはできなかった。そこで「約束」の履行を求めて、東京管理職ユニオンに加入する。
 しかし会社側は組合加入を理由に15年1月15日付けで中村氏を解雇。中村氏はすぐに解雇無効を求めて東京地裁に仮処分を申し立てた。
 15年4月。東京地裁は仮処分を決定。青林堂の不当労働行為、解雇無効が確認された。
 しかし青林堂は地裁決定を無視。同年6月になぜか労働審判で「雇用関係不存在」を申し立てる。
 当然ながら労働審判はこれを認めず、青林堂の主張は棄却された。
 結果、同年9月に東京都労働委員会によって復職和解が成立する。だが、会社側はこの和解協定を破り、中村氏の労働条件を一方的に引き下げ、和解内容をツイッターなどで公開した。
 中村氏は復職するも、パワハラは続いた。自費出版の営業を命じられたが、ネットや電話が使えなかったことは前述した通りだ。
 その後も不当労働行為が止まないため、組合は東京都労働委員会に救済申し立てをおこなう。これに関しては4月にも救済命令が出される予定となっている。
 仕事に必要な環境も与えなかったにもかかわらず、会社側は中村氏が「スト決行中」だと決めつけ、賃金を半額にした。これによって中村氏は精神的な疾患を発症、休職に追い込まれることとなった。
 さらにここにきて、会社側はあらたな動きを見せている。
 2月3日、中村さんは「休職命令」を受けた。3月5日までに復職できなければ雇用終了するとの通知である。
「現在、中村さんが休職しているのは、青林堂によるパワハラが原因。一方的な雇用終了など認められるわけがない」(東京管理職ユニオン・鈴木剛委員長)
 また、中村さんも次のように訴える。
「青林堂には、せめて常識的な会社になってほしいと思っている。あの『ガロ』を出していた会社なのだから、なおさらその思いは強い。私としては、この裁判で、すべての決着をつけたいと思っています。同時に、この闘いで、パワハラで苦しんでいるすべての人に、解決のヒントを与えることができればとも思っています」

 なお、青林堂側にも見解を求め、現在取材を申し込んでいる。
 その結果も、いずれ報告したい。 

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