「ノンフィクションの筆圧」安田浩一ウェブマガジン

消せない虐殺の歴史 社会を壊す歴史修正主義への加担

 小池百合子、3年連続の「黙殺」

 これで3年連続だ。
 9月1日、都立横網町公園(東京都墨田区)でおこなわれた関東大震災朝鮮人犠牲者追悼式に、小池百合子知事は何のメッセージも送らなかった。
 歴代知事が続けてきた追悼文送付は、小池都政下で途絶えたのだ。
 8月初旬の定例会見で小池知事はその理由を次のように述べている。
「都の慰霊堂で開かれる大法要で、関東大震災、先の大戦で犠牲となられたすべての方に哀悼の意を表している。関東大震災という大きな災害で犠牲になられた方々、またさまざまな事情で犠牲になられた方、すべての方々に対しての慰霊という気持ちには変わりはない」
 こうした発言もまた、例年通りだ。

「様々な事情」とは何なのか。この3年間、小池知事は一貫してそこを曖昧にしてきた。
 朝鮮人犠牲者追悼式は、震災直後に虐殺された犠牲者を悼むためにおこなわれてきたものだ。知事は「殺された」事実には何も触れていない。天災死と虐殺死を同じように扱うことで、「慰霊」を合理化してきたともいえる。いや、震災後の混乱の中、「朝鮮人が井戸に毒を入れた」などのデマが広がり、多くの朝鮮人が殺されたという事実にふたをするものだ。
 被害者、加害者双方から成る多くの証言、記録から、朝鮮人虐殺があった事実は動かすことができない。政府の中央防災会議が2009年までにまとめた報告書には「虐殺という表現が妥当する例が多かった。対象は朝鮮人がもっとも多かったが、中国人、内地人(日本人)も被害にあった」と記されている。殺害された朝鮮人犠牲者数に関して同会議は震災の全死者(約10万5千人)のうち、「1~数%」、つまり千~数千人にあたると推定した。つまり、「虐殺」は政府が認めたものでもあるのだ。
 また、震災直後に調査した朝鮮人団体は、犠牲者の数を6千人としている。
 状況からしても正確な人数を弾き出すことはことは不可能だが、虐殺の事実を否定する歴史家はいないだろう。
 そのあたりは同問題を精力的に追いかけている加藤直樹氏の『TRICK~「朝鮮人虐殺」をなかったことにしたい人たち』(ころから)にて詳述されているが、これまで『新しい歴史教科書』の執筆にも関わってきた保守系の歴史家ですら、「朝鮮人犠牲者6千人」と記述してきたのである。
 だからこそ、たとえば「三国人発言」のような差別認識を披露した石原慎太郎氏も含めて、歴代都知事はこれまで朝鮮人犠牲者の追悼式にメッセージを送り続けてきた。
 さらに前述したように、朝鮮人であると疑われ、殺された日本人犠牲者もいた。(参照・『関東大震災の朝鮮人虐殺から94年目の2017年、犠牲者は再度「殺された」』
 こうした事実から目を背けて歴史にふたをすることは、行政の長として極めて不誠実だといえよう。

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