「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

ファビオの発見、そして理詰めの勝利 [ナビスコカップ川崎戦レビュー] (藤井雅彦)

最大の発見にして、驚きであった。これがJリーグデビュー戦となったファビオがハイパフォーマンスを見せ、マリノスを勝利へと導いた。彼はつい最近まで3カテゴリー下の関東1部リーグでプレーしていたわけだが、何かの手違いで入団するクラブを間違えてしまったのではないか。

「日本での下地を作る意味合いもあって相模原に加入した経緯もあった」と明かしたものの、もっと早くJ1でプレーすべきだった。J参入を目指すSC相模原(現・JFL)を下に見るわけでなく、彼のパフォーマンスはトップリーグが相応しい。それほどまでに一人のDFとして圧倒的な存在感を放っていた。

日本代表に招集された栗原勇蔵の代役としてピッチに立ったわけだが、そのほかの10選手に関しては一切の手抜きなしのフルメンバーであった。いや、むしろ昨シーズンのレギュラーでチームで唯一ドリブルという武器を持つ齋藤学が先発に名を連ねたのだから、リーグ戦よりもチーム力はアップしていたという見方もできる。ファビオがレギュラークラスと遜色ないパフォーマンスを見せたことで、それはより確かになった。

逆に川崎フロンターレは核となる中村憲剛を栗原と同じく日本代表招集で欠き、しかも直近のリーグ戦で5失点していた反省を踏まえてノーリスクな戦いを選択したようだ。能動的にボールを動かす姿勢は影を潜め、かといって守る場面でボールに対してプレッシャーにかけるわけでもない。「勝負をさせてくれるプレスの甘さが相手にあった」とはボランチの富澤清太郎の言葉だ。ボール保持者に時間と余裕が生まれ、本来はプレッシャーの激しいエリアでも難なくターンして前を向くことができた。

だからといって簡単にゴールに到達するわけではない。齋藤がいよいよ力を発揮し始めたのは後半に入ってからで、相手DFを独力で一枚はがすことができるプレーヤーは彼しかいない。パスだけで完全攻略するのは、やはり至難の業なのだ。ドリブルがなく、鋭利なクロスを供給できる選手もいない。さらに言えば中距離からシュートを狙う意識も稀薄だった。正直にパスを回しているだけでは、やはり最後の最後で突破しきれない。

もちろんゴールが生まれない状況でも信念を持って繰り返したからこそ決勝点が生まれたわけで、それは評価に値する。一発の破壊力を秘めた得点能力こそ持たないが、理詰めで相手をじわじわと押し込み、最後に土俵際へ押し出す。「1-0とかで粘って勝つのが本当の自分たち」という中村俊輔の言葉通り、実にマリノスらしい勝利であった。

そんな“らしい”勝利に水を差したのが主審の判定である。判定に一貫性がないわけではなく、そもそもの基準が不透明という意味では皮肉ながら一貫性を持っていたかもしれない。

顕著な例として、前半に中村が相手の隙を突いて直接FKを狙った場面を挙げたい。中村の認識は「審判がプレーをちゃんと止めたか分からなかったから蹴ってみた」というもの。ああいった場面で主審は一度プレーを止める、もしくは選手に判断を委ねる場面もある。中村クラスのキッカーになれば主審との交渉も慣れたもので、あえてプレーを切らずにプレーを続行する場面もあるという。それがゴールにつながったのが2シーズン前の名古屋グランパス戦で、相手が壁を作っている隙にまんまとゴールネットを揺らした。だから中村は今回もオンプレーという認識の下にシュートを狙った。

結果的に主審はプレーを一度止めていたつもりのようで、中村のシュートは認められなかった。そこまでは認識の相違であり、プレーのやり直しを命じられても納得できる。だが、その中村のプレーを『反スポーツ的行為』という判定で警告の対象にするのはいかがなものか。これには中村も苦笑いするしかなく、「あれで警告はちょっとね…」と首をひねった。すれ違いがあったならば注意を与えればよかったのではないか。即座にイエローカードを提示しては、ただ権力を誇示しているだけに過ぎない。

齋藤のPK獲得疑惑など、そのほかのシーンについてはあえて言及しないが、プレーヤーは人間であり、それを裁く審判も同じ人間だ。お互いにミスや勘違いはどうしても起きるもの。だからこそコミュニケーションが必要なのではないか。ゴールこそ1つのみだったが、「しびれるような展開」(中澤佑二)だったからこそ審判の稚拙な笛がより際立ってしまった。

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