「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

勝ち点3と引き換えに連勝を続けるチームが初めてバランスを崩した [J4節 FC東京戦レビュー] (藤井雅彦)

大量得点での大勝も、苦労した1点差ゲームも、得られるのは同じ勝ち点3のみ。それこそが最高にして唯一の目標で、90分という時間帯に決勝ゴールが生まれた勝利の価値は大きい。

ではFC東京はリーグ優勝を争うような強豪クラブか。否、そうではないだろう。

「ここまでの4試合の中で一番いい相手。そのチームに勝てたのは自信になる」と決勝アシストの兵藤慎剛は笑みをこぼした。たしかにこれまで対戦してきたどのチームよりも個々の能力が高く、組織としての完成度も高かった。それは失点場面だけを切り取っても明らかだ。

1失点目はこちらがスローインを与えたことが原因とはいえ、流動的なパス交換でサイドを崩され、そのために中央のマークが若干ながらズレた。李忠成のボレーシュートはマリノス守備陣の間隙を突く見事な一撃だった。2失点目については中盤でのミスを見逃さない素晴らしいカウンターアタックでゴールネットを揺らした。縦に速く、少ないパス交換からのコンビネーションで、フィニッシュはあろうことか渡邉千真。これ以上の屈辱はないが、形式としては抜け目のないゴールだった。

にもかかわらずFC東京は勝てなかった。端的に言えば得点以上に失点したからで、彼らの失点場面、つまりマリノスの得点場面はいずれもFC東京の甘さが垣間見えた。中村俊輔の直接FKは幸運が降り注いだゴールである。キッカーから見て壁の一番左に入った東慶悟に当たり、ゴールへと吸い込まれたという点では“事故”だ。しかしファウルを与えたところに問題がなかったわけではない。藤田祥史のポストプレーに遅れて対応した森重真人のプレーがファウルとなり、マリノスにチャンスを与えた。それまでまったくノーチャンスのマリノスにとっては少し遠い位置からのFKでも千載一遇のチャンスだった。

藤田の2ゴールは彼の特徴がいかんなく発揮されていた。マルキーニョスの代役というプレッシャーがありながら、ストライカーとしてのパーフェクトな仕事でチームを勝利に導いたと言える。ただしそれらの場面もFC東京の守備陣はやや緩慢だったと言わざるをえない。天野貴史からのクロスを頭で決めた2点目は、スローインからの流れでマークを疎かにした。決勝点のシーンにしても、森重は兵藤に意識を奪われて藤田をフリーにしてしまった。

こうして振り返ると、FC東京は手強い相手ではあったが、決して優勝争いを演じるチームのパフォーマンスではなかったように思う。テクニックとフィジカルのレベルは相当高くても、メンタリティは勝者のそれではない。理想を追い求めるランコ・ポポヴィッチ監督の性格かもしれないが、最終局面で淡白な印象は拭いきれない。昨シーズンの柏レイソルやベガルタ仙台のような勝負強さを有するチームではない。

では、なぜそのチームにここまで苦戦したのか。スタメン構成も含めて、相手と同じくらい大きな隙が自分たちにあったからにほかならない。試合前から懸念された自陣右サイドを崩され、スタメンに抜擢された佐藤優平は前半45分のみで交代を命じられる。指揮官が判断を間違えたことは明らかだった。

試合前の時点でこの起用法を疑問視する声は多かった。「右サイドが穴だから」と冗談半分に話す選手や「(佐藤)優平がどこまでできるのか一緒にプレーしていないから分からない」と困惑する選手もいた。このように実際にプレーするチームメイトが互いの良さを理解できていない状況が問題なのだ。当然、信頼関係ができていないチームは一体感を欠く。試合に臨むチームは11人、あるいはベンチを含めた18人の人間による集合体なのだから力を発揮しきれないのは明白であろう。

チームスポーツという観点からすれば、力のあるレギュラーメンバーが抜擢された新規選手をフォローするという作用を生む可能性もあるが、それはあくまで選手が自主的に行う付加価値でしかない。助け合いの精神と言えば聞こえはいいが、言い方を変えれば尻拭いでしかないのだ。そして監督がそのことも計算に入れているとしたら大きな間違いだ。勝算のない起用に踏み切った指揮官を評価することはできない。むしろ起用責任を問われるべきだ。

接戦を競り勝った貴重な勝ち点3と引き換えに、開幕から連勝を続けるチームが初めてバランスを崩した。そのことが明らかとなるのはこのチームに初めて土がついて以降だろう。チームが勝っていれば問題点は見えにくいもので、良しとされてしまう。だが本質はそうではない。誤解を恐れずに言えば、長い目で見たときに勝ってはいけないゲームだったのかもしれない。それほどまでにいまのマリノスは危険と隣り合わせの道を歩んでいる。

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