「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

「あの華やかな世界、あの舞台に立つ感覚を味わってしまうと、選手としてではなくても監督やコーチとして味わいたいと誰でも思うんじゃないかな」 [トリコロールを纏った男たち : 大島秀夫コーチインタビュー第3回]

 

【大島秀夫コーチインタビュー原稿(第3回)】

実施日:6月21日(木)
インタビュー・文:藤井 雅彦
協力:横浜F・マリノス広報室

前回より続く

 

かつて横浜F・マリノスに在籍し、現在はスパイクを脱いだ男たちにスポットライトを当てるこの企画。本稿は現在、F・マリノスジュニアユースでコーチを務める大島秀夫さんが題材の最終第3回となる。

2016シーズン限りで引退した大島は、2017年から横浜F・マリノスジュニアユースコーチに。サッカーを生業とする選手から、教え伝える指導者に立場を変化させ、忙しい日々を過ごしている。

「指導者はずっと修行だろうだけど、特に最初の2年間は修行だと思っている」

そう自分自身に言い聞かせるように、新米コーチが一歩目を踏み出した。

 

 

 

現役時代、主に週末に照準を合わせて行っていたトレーニングは、指導の時間に変わった。チームの勝利に貢献し、自身の価値を高めるための試合は、第一に選手たちの成長を確かめる場となった。

「今はジュニアユース追浜の2年生クラスを担当しているんだ。学年それぞれにチームがあって、それぞれに担当がいて、選手によっては飛び級で上の代に入る子もいる。練習は同じ空間でも別々にやっているし、試合や遠征もそれぞれ違うスケジュールなんだよ」

 楽しそうに話すが、悩みは尽きないという。中学2年生といえば、とても多感な時期である。ほぼ毎日彼らと接する大島でさえ「思春期であり反抗期であり、大人でも子どもでもない難しいところ」と掴み切れていない。子どもから見た大島は元プロ選手のコーチであり、先生のような存在なのだろうが、大島にとっては彼らの位置付けが難しい。

「いろいろと不安定な年頃だと思うので、人によっては接し方を変えないといけない。でも自分が伝えたいことがまったく響いていないこともあって、そういう時はすごく考えてしまう。自分が大きな声を出して指示をすればいいというわけでもない。指導者の仕事を初めて1年半近くになるけど、伝え方や伝えるタイミングなど、本当に難しい」

 苦労の連続だが、充実の時間を過ごす。そんな新米コーチに指導者としてのポリシーを聞いてみた。最初は「うーん、なんだろう」としばらく沈黙したが、しばらくして封を切ったように話し始めた。

「指導する時には『準備』という言葉をたくさん使っているかもしれない。すべてのことに自由を与えてしまうと彼らは困ってしまって何も出てこなくなるケースがある。だから、まずはある程度の基準や約束事を示してあげることが大切。その次に、どんな準備が必要なの? と伝える。例えばボールを受けるための準備もそうだし、試合に臨むためにどんな準備が必要か、もそう。基準があって、そのための準備があって、それで判断や選択ができるようになると思う。日々のトレーニングでやってきたことが試合で出せた時は自分も嬉しいけど、何よりも本人たちが嬉しいし、自信になるはず。それが一番の成長になる。行き当たりばったりの結果を検証するよりも、意図的にやってみた結果を振り返ることが大切。準備してきたことにチャレンジして成功した時の喜びや充実感は、言葉では言い表せない」

 口調は自然と熱を帯びてきた。その表情はプレーヤーではなく指導者のそれになっており、真剣な眼差しがグラウンドを走る選手たちに向けられているようだった。

『準備』で大島の頭に浮かんだのは、かつてのチームメイトで現在も現役として活躍する中澤佑二だ。40歳になった今もなお、高いパフォーマンスを維持し、新たなチャレンジにも貪欲。それが自分よりも2学年上なのだから、尊敬の念しかない。

 

 

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