「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

組織守備の中心にいる富澤がいない。が・・・ [J7節新潟戦プレビュー] (藤井雅彦)

 

 

富澤清太郎がいない。今週火曜日のトレーニング中に左太もも裏を痛め、クラブハウスへ引き上げた。翌日、川崎市内で精密検査を行った結果、重傷ではないながらも出血が確認された。負傷直後から「オレは出るつもりでいる」と強気な姿勢を崩さないのはなんとも彼らしいが、残念ながらアルビレックス新潟は回避する模様で、遠征メンバーから外れた。樋口靖洋監督は「そこまで深刻なものではない」と話す一方で「これから連戦もある。リスクを冒して長引いてはいけない」と欠場を示唆。ここまでリーグ戦全試合に先発出場し、最近2試合は豪快なミドルシュートとセットプレーからのヘディングシュートでいずれも先制点を叩き出しているポイントゲッターを欠く。大きな痛手となるだろう。

背番号27の危機察知能力は今シーズンのみならず、昨シーズンからマリノスを支える要因となっていた。「サッカーは考えてやるスポーツ」という口癖を体現するように、常に周囲を見渡し、実際の動きだけでなく頭の中まで想像を張り巡らせる。洞察力に優れているからこそセカンドボール収拾に長け、危険な場面を未然に防ぐことができる。ディフェンスライン前方のフィルター役として構える富澤は、いわば「地引網」(中町公祐)だ。周囲を効果的に動かしつつ、最後は自身でボールを絡めとる。組織守備の中心にいるのが富澤なのだ。

対して、代役となる小椋祥平は「銛」(中町)である。野性的な勘で中盤の底を飛び出し、相手に果敢にプレッシャーをかける。動物的な出足の鋭さでそのままボールを奪い、マイボールに変えることができる。これは富澤にはない武器で、ボール奪取能力に関してはマリノスのナンバーワン。Jリーグ全体を見渡してもそうそういない特殊技能と言える。最近は中町が同じような動きからボール奪取を繰り返しているが、戦況を見極めた上で飛び出していく中町との違いは、小椋の場合は本能が勝っている点にある。行けるという確信がある場合、あるいは確信がなくても、行ききる。恐れを知らないディフェンススタイルは諸刃の剣でもあるが、通常では考えられないような圧巻のボール奪取をこれまで何度も見せてきた。良し悪しではなく、富澤と小椋の守り方はそもそも異なるのである。

問題は小椋の守備方法がいまのマリノスにフィットするか否か。マリノスの好調はトップ下の中村俊輔のハイパフォーマンスと、それを後方からサポートする中町と富澤の存在によるところが大きかった。もともとフリーマンのように自由なポジショニングで攻撃のタクトを振るう中村はもちろん、中町も攻守両面において動きに制限をかけることなくプレーしてこそ良さを発揮するタイプなのだ。彼らが輝けるのは中盤の底に富澤がいるからこそで、バランサータイプではない小椋にその役はおそらく務まらない。「パッと見たときにオグ(小椋)がポジションにいないことがある」と話したのはCBの栗原で、小椋もまた本能的にピッチを動き回るタイプである。前述したボール奪取時だけでなく、攻撃でも高い位置をとる場面、もしくはサイドに開く場合もある。

懸念すべきはマイボールを奪われたあとの被カウンターだ。中盤の底に誰もいない無防備な状態、あるいは下がってボールをさばく中村一人が残っている状況になりかねない。すると強さと堅さを発揮するはずの最終ラインは途端に脆さを露呈するだろう。ここまで無得点の新潟2トップではあるが、ブルーノ・ロペスと田中達也はいずれもムービングタイプでカウンター時に能力を発揮する。チームそのものはリーグワーストの3得点と苦しんでいるとはいえ、一つのカウンターをきっかけに息を吹き返しかねない。

少しの隙も見せるわけにはいかない。ここまで無傷だからこそ小さな傷が大きく見えてしまう可能性がある。仮に内容が良くても、結果が引き分けであれば勝ち点2を落としたように感じるときもある。目指すべきはもちろん勝ち点3なのだが、その結果が勝ち点1であるのに、そうは思えない。こうして自分たちから精神的に気落ちすれば、次の試合に悪影響を及ぼすかもしれない。それらを未然に防ぐには、やはりどんな内容でも勝つことが最良の策である。

負けたあとのリバウンドメンタリティを問うのは、負けてからでいい。まずは7連勝を目指し、次節のヴァンフォーレ甲府にも勝利して8連勝を飾る。「今月は負けられない」(兵藤慎剛)。来月以降に控える強敵との対戦を前に一つでも多く貯金、つまり勝ち点を積み上げておく必要がある。

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