「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

タイトルを争うチームが連敗してはいけない [J7節甲府戦プレビュー] (藤井雅彦)

開幕戦で湘南ベルマーレに4-2の勝利を収めて以来、マリノスは1位の席に座り続けてきた。開幕6連勝と、それに付随する攻撃陣の好調によって、順位は不動だった。前節、アルビレックス新潟に敗れて今季初黒星を喫したが、以前として順位は首位のまま。ここまでの貯金が生きた格好だ。

不動の首位だから当然のことだが、これまでは自分たちよりも下位のチームとしか対戦していない。それはマリノスの順位を抜きにして、決して上位陣との対戦ではなかったことを強調したい。現在順位が16位の湘南や18位のジュビロ磐田、さらには14位の川崎フロンターレ、一時期の不調を抜け出した清水エスパルスにしてもまだ11位のだ。逆に上位陣で対戦したのはサンフレッチェ広島の4位が最高順位で、次は9位のFC東京まで下っていかなければならない。敗れた新潟の順位は13位だ。

この対戦順が示唆するもの。それは「これからは強い相手との対戦が続く」(兵藤慎剛)という裏返しである。ヴァンフォーレ甲府戦を終えると、5月は鹿島アントラーズ戦を皮切りに柏レイソルや名古屋グランパス、ベガルタ仙台と対戦が続く。それらのチームは個の能力が高いだけでなく、チームとして勝つ術を知っている。特筆すべきはここ数年の間にタイトルを争った経験のあるチームばかりなのだ。おそらく一筋縄では行かない。しかも日程的にもナビスコカップを挟んだ連戦となる。カップ戦の決勝トーナメント進出のためにも大きくメンバーを落とすことはできないため「総力戦」(樋口靖洋)だ。すると層の薄いマリノスに有利に働くとは考えにくい。

強者との連戦を乗り切るためにはメンタル面の充実も欠かせない。開幕6連勝は勝つことによって自信を蓄え、さらに勝ちたいという貪欲な姿勢を上乗せした結果だ。だからこそリーグ戦での連敗は絶対に避けなければならない。連敗すれば気落ちするのは目に見えており、気がつくと疑心暗鬼になっていく。小さな綻びがいつしか重大な欠陥となる。それを覆い隠すためには勝ち続けるしか方法はない。

あるいは負けゲームをどうにか引き分ける技術やマネジメントも必要になってくるだろう。例えば新潟戦がそれに当てはまる。明らかに自分たちのペースではないのだから、無理をしてはいけない。初めて土がつき、潔癖になる必要もなくなった。勝ち点1を良しとすべき試合もきっとある。これは新潟戦を終えての結果論ではなく、シーズン34試合を戦う上で必要なマネジメントだ。すでに全勝は無理だが、かといって33勝できるほど甘くはない。少し気が早くても、目標達成に必要な勝ち点獲得への算段を考えるべきだ。

それらを総合したとき、ヴァンフォーレ甲府戦では勝ち点3が必要だ。ナビスコカップで対戦した際は今季ここまでのベストゲームとも言える内容で2-0の完封勝利を収めた。相手に何もさせず、マリノスは前後半に1得点ずつを挙げた。ほぼパーフェクトな内容で非の打ち所がなかった。その再現を狙いたい。

しかしながら「簡単な試合にならない」という樋口監督の言葉はおそらく本音である。ここ最近の甲府は粘り強く戦い、着実に勝ち点を稼いでいる。昇格組3チームの中で最上位の10位とまずまず健闘しており、まとまりのあるサッカーを展開している。その甲府の特徴について樋口監督は「いわゆるオーソドックスに戦うチーム。チーム全体で守備をして、ボールを動かすのも3~4人のグループで行う。個よりもグループで戦ってくるイメージがある」と語る。特定の個人に頼るのではなく、チーム全体で連動した攻守を行う。J1で善戦できている自信を得ているとすれば厄介な相手かもしれない。

その相手を打ち破るのに手っ取り早いのはセットプレーだろう。試合前日のセットプレー練習を見る限り、中村俊輔のキックは相変わらずの高精度を誇る。おそらくこれはシーズン最後まで揺るがない確定事項。つまり中村さえいれば、どの試合ではそれなりのチャンスを作れる。セットプレーが不発に終わった新潟戦はCKがわずか2本のみ。これでは伝家の宝刀は出せずじまいである。甲府戦での最初のポイントはセットプレーを数多く獲得できるかどうか。ドリブラー齋藤学の再離脱は大きな痛手となるだけに、マルキーニョスや端戸仁は効果的なボールキープでファウルを獲得したい。チームとしても押し込んだ状態で積極的にシュートを狙うことでCKを増やせれば流れはおのずと傾く。

ターゲット役として健在の中澤佑二や栗原勇蔵の存在はもちろん、この試合では富澤清太郎が戦列に復帰する。筋肉系の負傷も癒えたようで樋口監督は「もう不安はない」と言い切り、富澤本人も「(新潟戦を見て)このまま休んでいたら試合に出られなくなるという危機感を飢え付けられた。気合い十分」と闘志を燃やしている。常に貪欲な男だけに、新潟戦を欠場したことでさらにモチベーションを高めているに違いない。セットプレーから得点できればマリノスペースで試合は進むはず。ここまでリーグ戦5試合連続で失点していることが唯一の気がかりだが、優位に立てるのは間違いない。

「タイトルを争うチームが連敗してはいけない」。中澤の言葉を借りるまでもなく、チームの士気は高まっている。前のめりになりすぎることなく、かといって淡白な印象ではない。試合に向けて、良い緊張感とともに少しずつ機運を高めている雰囲気がクラブハウス内にある。充実のハイパフォーマンスが新たな連勝への一歩目になることを期待したい。

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