「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

ファビオの日 [J9節 鹿島戦レビュー] (藤井雅彦)


 

ホームゲームの結果が芳しくなかった後、選手たちがよく口にするセリフがある。

「ホームだったから勝たなければいけなかった」

 集客への影響を考えたとき、ホームゲームでクオリティの高いプレーをしてチームが勝つことには意味がある。ライト層がもう一度スタジアムに足を運ぶ動機になるかもしれない。スポンサーに与える印象も大きく変わってくるはずだ。ただし、それらはあくまで営業的な側面からの話で、戦いにおいては必ずしもそうとは限らない。

ホームで勝つよりもアウェイの厳しい環境で勝つ価値のほうが大きいという見方もできる。例えば、真っ赤に染まった埼玉スタジアムで浦和レッズを破る。あるいは今シーズンも勝てなかった東北電力ビッグスワンスタジアムでのアルビレックス新潟という鬼門を突破する。彼らはホームゲームを得意としているチームだからこそ、その地で勝てば付加価値がもたらされる。

一概に、ホームだから勝たなければいけない、アウェイだから引き分けでもいい、というわけではない。ホームでも厳しい試合はあるし、逆にアウェイで比較的ラクな試合も存在する。第2節・清水エスパルス戦は後者に当たるゲームで、むしろサッカーに対して目が肥えている静岡県民の声援が清水にとってプレッシャーになっていたのかもしれない。

鹿島アントラーズ戦は前者に該当する試合だった。「鹿島は強い」(中澤佑二)。彼ほどの選手がリスペクトしてやまない実力を持つ対戦相手は、おそらく今年のJリーグでも上位を争う存在だろう。試合展開を振り返ってみても、互いに主導権を握りきれないまま先制を許した。それもあろうことか警戒していたセットプレーからの失点である。勝利するには2点が必要という、かなり高いハードルが設定された。内容面で圧倒していての先制点献上ならば話は少し違うだろうが、どうにも主導権を握れない中での手痛い失点だった。

両チームともに球際が厳しく、簡単にボールを持たせてくれない。コンパクトな陣形を保ったままセカンドボール争いが激しくなる。攻守に出足の鋭いマリノスと同等以上の能力を持つ鹿島は非常に厄介な相手だ。さらに最前線にはダヴィという迫力満点のストライカーがいた。低い位置からのセットプレーでマリノスのCBは栗原勇蔵のみが相手ゴール前に上がり、中澤はあえて自陣に残る選択をした。理由は「鹿島のFWは一人でゴールまで行けてしまう。特に今日はダヴィがいた」。相手の圧力によってストロングポイントであるセットプレーの威力を半減させられてしまった。

それでもチャンスはいくつかあった。前後半で中町公祐は3度も惜しいヘディングシュートを放っている。9分のヘディングシュートは右ポストに弾かれ、63分には中村俊輔の左CKをニアで合わせたがコースが甘くGKに阻まれた。最も惜しかったのは78分の場面だろう。小林祐三の右クロスにうまく入り込んで頭で合わせたが、これはGK曽ヶ端のファインセーブを褒めるしかない。シュートの質を追求することはもちろん必要だが、少なくとも彼の日ではなかった。

では誰の日だったのか。途中出場でCBに入ったファビオの日だった。栗原を最前線に上げるためにCBの位置に入った彼が最終的にチームを救う同点弾を決めた(正確には栗原に当たってゴールへと軌道を変えた)。シュートシーンを巻き戻しても、ドゥトラのハイボールに最初に触れたのはファビオで、彼の存在がなければ勝ち点1獲得はなかった。樋口靖洋監督のお手柄と言えるだろう。また、ゴール前に人数を割くという点では藤田祥史も少なからず効力を発揮し、佐藤優平はスペースへのランニングで鹿島守備陣を困らせた。両者とも決定的な何かはできなかったが、チーム全体で押し込む際の駒として貢献した。齋藤学というリーグ屈指の打開力を誇るドリブラーがいない中で、チームは能力の最大値に近いものを発揮した。

勝ち点1は試合点回を考えれば納得の結果だ。「勝ちを狙っていたので引き分けという結果には満足できない」と栗原は渋い表情だった。だが長いシーズンでこういった試合は必ずある。FC東京戦や川崎フロンターレ戦のように終了間際まで同点のゲームを最後に勝ち越して勝ち切れるのは大きい。同様に、敗色濃厚のゲームを最後の最後に追いつくことにも価値を見出すべきだ。無得点のまま鹿島に逃げ切られていれば、メンタル的には今後の戦いも難しくなる。尾を引く可能性は高い。

もちろん引き分けてはいけないゲームもある。それが前節のヴァンフォーレ甲府戦だ。しっかり逃げ切らなければいけない試合で、勝ち点2を落とした。一方で、引き分けを良しとすべき試合もある。言わずもがな、鹿島戦だ。今後、ともに上位を争うであろう鹿島から勝ち点2を奪ったことも評価に値する。彼らが上昇気流に乗っていくのを土壇場で足止めしたのだから。

難しい相手との戦いが続く5月のスタートとしてはベターな結果だ。それも自分たちで結果をもぎ取ったのだから余計に意味がある。

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