「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

長崎戦での勝利により、J1残留に大きく前進。来季に向けた編成を具体的にスタートさせるための重要なファクターとなる [J32節 長崎戦レビュー]

 

簡単に勝てる試合などない。あらためてそう思い知らされた。相手は最下位に沈むV・ファーレン長崎だが、残留に向けて尻に火が付いた状態の相手は死に物狂いで戦ってくる。1点を守るために体を投げ出し、1点を取るために全精力を傾ける。ホームでは5対2と大勝したが、同じようにはいかなかった。

 伊藤翔の言うように「自分が外してしまったことでチームの首を絞めた」という側面はたしかにある。14分、大津祐樹がスペースへ出したボールを伊藤が折り返し、ゴール前に走り込む遠藤渓太へ。後追いになった相手DFはたまらずファウルを犯し、PKを獲得。しかし、このPKを伊藤が決め切れなかった。

左肘骨折から復帰し、5試合ぶりに先発した背番号16にとってはほろ苦さ先行の試合として記憶されるだろう。PK失敗後の28分には、天野純から折り返しのボールを受けたが、またしてもGK徳重健太に阻まれる。コンビネーションプレーでチャンスを作っているが決めきれない。すると反対に失点してもおかしくない、嫌な流れになりかけた。

後半に入って、65分に途中出場のイッペイ・シノヅカの左クロスを受けて伊藤がシュートを放つも、今度はバーを直撃。「あれが入らないで何が入るんだ」と悔しさを露わにした。攻めても、攻めてもゴールネットを揺らすことができない展開に、いよいよ暗雲立ち込めてきた。主導権を握りながらも相手のワンチャンスで失点して黒星を喫するのは、サッカーの世界で珍しい展開ではない。

そんな不安を吹き飛ばしたのは、伊藤だった。

 

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74分、左サイドのイッペイ・シノヅカが右足でクロスを上げると、ドゥシャンをかすめ、すぐ後ろで待っていた伊藤の足元へ。「ドゥシャンに当たったボールが自分に当たって入った」。狙って放ったシュートとは言い難いラッキーゴールだが、どんな形でもゴールはゴールだ。

得点後、伊藤は歓喜に沸くゴール裏のサポーターに向けて一礼。

「お辞儀には二つの意味があった。一つは、今日はごめんなさい、という意味。二つ目はケガをした時にたくさん励ましの声をもらったお礼の意味」

 真っ先にサポーターへの気持ちを行動に移した。

このゴールが決勝点となり、リーグ戦3試合ぶりの勝利を手にした。ほぼ圧倒した内容とは裏腹に最少得点差による1-0の勝利は決して楽勝ではない。ただ、多くの局面でマリノスが優位にゲームを進めたのは明らかで、アンジェ・ポステコグルー監督は「勝ちに値するパフォーマンスだった」と納得の表情を見せた。

長崎戦での勝利により、J1残留に大きく前進。目標はもっと高いところに設定されていたはずだが、来季に向けた編成を具体的にスタートさせるための重要なファクターとなる。残り2試合も連勝で終えることで有終の美を飾り、並行して来季こそタイトル獲得を成し遂げられる陣容を整えなければならない。

 

 

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