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「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

高野遼は下を向かない。「サポーターが『帰ってきてくれてありがとう』『いいプレーだったよ』と声をかけてくれた恩返しするため、早く復帰してまたグラウンドに立ちたい」<無料記事>

 

 

「地獄じゃないですよ。だってオレ、まだまだ天国に行っていないですから」

 高野遼は笑っていた。全治8ヵ月見込みという重傷を負ったのだから、気落ちしていても不思議ではない。それなのに、彼は努めて明るく振る舞う。同級生で小学校時代から一緒にボールを蹴っている喜田拓也は「あいつは気を遣えるヤツなんですよ」と今にも涙がこぼれ落ちそうな様子で言葉を振り絞った。

3月8日のこと。対人練習の最中に、ボールを持っている仲川輝人に対してリアクションの動作を行った瞬間だった。

「自分がターンしようとした時に右足のひざ下だけテルくんのほうを向いて、体だけターンしてしまった。体の動きにひざ下だけついてこなかった感じ。『ゴリゴリッ』って」

 最初は違和感だけ。直線の動きは問題ない。ジャンプもできる。練習の終盤だったこともあり、最後までメニューも消化できた。異変に気づかないチームメイトやスタッフがほとんどだった。ただ「力が入らない動作があった」。

練習後、病院へ行ってMRI検査を実施。その画像を元に、メディカルルームでドクターの診断を仰ぐ。夕方が迫ってくる時刻の部屋には、自分以外にトレーニングやメンテナンスを行っていた仲川と喜田の二人しか残っていなかった。

右ひざ前十字じん帯損傷と聞いても、いまいちピンと来なかった。それよりも人生初の『手術』というワードに置かれている現実を知った。これまで経験した一番大きな負傷は太もも裏の肉離れ。長期離脱は、もちろん初めての経験だ。

 

 

チームは開幕から2連勝と上々のスタートを切った。自身も2試合連続で先発出場。2日のベガルタ仙台戦では念願の日産スタジアムデビューを果たし、慣れない役割を課せられる左サイドバックの位置で奮闘していた。マリノスの一員として、いや戦力としての日々が幕開けした直後のアクシデント。好事魔多し、と言うほかない。

川崎フロンターレ戦はスタンドから仲間の戦いを見守った。「自分がいたらどうなっていたのかなと思って見ていました。フロンターレはやっぱりレベルが高いチームだったので、その試合でいいプレーをしたら目立てたかなぁ(笑)」。そんなふうにぼんやり考えていると、仲間がちょっぴりうらやましくなった。

 

 

これからはそのピッチに戻ってくるための歩みをスタートさせる。高野は高野のピッチで戦いを始める。

「開幕から試合に出させてもらってチームも勝てたのはよかったです。でも個人的に満足していたわけではないし、今がサッカー人生で一番嬉しい瞬間というわけでもありません。もっと高いレベルを目指しているし、もっとマリノスに貢献できる選手になりたい。これは今年マリノスに帰ってきたからこその試練です。自分はまだまだの選手だし、何かが足りないということ。神様にそう言われているんでしょう。パワーアップできる。ネガティブにはならない。ポジティブにやっていく。順調にリハビリして早く復帰できれば、終盤のリーグ戦に出場できるかもしれない」

 落ち込む様子などおくびにも出さない。そんな高野に対して、盟友の喜田がエールを送ってくれた。

「遼とはキャンプから同部屋で、練習試合の映像を一緒に観たりして、試行錯誤していたのを知っています。今までの遼の中にはなかったサッカーをやっていて、新しいひきだしを作っている最中だったと思います。開幕戦からの2試合もインサイドに入ってきて、左サイドの(天野)純くんやマルコス(ジュニオール)とのコンビネーションから相手のペナルティエリアに入ってシュートを打ったり、『普通にできるじゃん』って思って見ていました(笑)。診断結果を同じタイミングで聞いてショックでした。あいつが一番悔しいと思うけど、オレのほうが悲しんでいるんじゃないかというくらいケロッとしているのがあいつらしい。小学校から一緒にボールを蹴ってきた仲間と一緒のチームでプロとして勝てることはなかなかない。だから遼のぶんも頑張りたい。また一緒にやりたいと思ってもらえるように」

 これから手術を行い、リハビリをスタートさせる。手術直後は歩けないかもしれない。階段の上り下りが難しく、私生活に支障が出る場面もあるだろう。しばらくして、ようやく走れるようになり、ボールを蹴る日常が戻ってくるのは、もっと先のこと。だからこそ応援や励まし、サポートが復帰への活力となる。

「マリノスに帰ってきて、まだ2試合しかやっていません。でも、この2試合の間にサポーターの方々から、予想以上に反響がありました。『帰ってきてくれてありがとう』、『いいプレーだったよ』と声をかけてくれました。それが嬉しくて、心の支えになっています。たいした結果も出していない自分に、たくさんの応援やエールを送ってくれる方々に感謝です。恩返しするために、早く復帰して、またグラウンドに立ちたい」

 やっぱり下を向いていない。高野遼は必ずピッチに帰ってくる。

 

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