「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

樋口監督「テレパシーを送ります」-勝てば予選突破の可能性 [ナビスコ予選 磐田戦] (藤井雅彦) -2,452文字-


ヤマザキナビスコカップの予選リーグが佳境を迎えている。

第6節を迎える時点で、マリノスが所属するグループAは勝ち点9でジュビロ磐田とマリノスが並び、勝ち点7の川崎フロンターレが追いかける展開。4位の大宮アルディージャは勝ち点6だが、上位3チームと異なるのはすでに5試合を消化している点で厳しい状況だ。実質的には残り2試合を残す上位3チームの争いに絞られた。

明日、マリノスは磐田をホームのニッパツ三ツ沢球技場で迎え撃つ。川崎Fの動向次第では予選リーグ突破が決まる重要な試合となる。いくつかポイントはあるが、まずキックオフ時間が川崎F対大宮よりも30分遅い。これが試合にどのような影響を与えるか。マリノスと磐田の勝者に予選リーグ突破の権利が与えられるが、川崎Fが引き分け以下の場合に限られる。つまり川崎Fが勝利した時点で、グループAからの勝ち上がりがこの日に決まる可能性は絶たれる。

19時キックオフとなる川崎Fの結果を知るのはおそらく21時前あたりだろう。目の前の試合は後半15~20分といったところか。その報に関係なく勝利を目指すだろうが、心理面に多少の影響を及ぼすかもしれない。これは勝っている場合ではなく、むしろ負けている状況で有効活用すべきだろう。ビハインドでも焦ることなく戦える。想像したくはないが、負けても2位をキープすることで、最終節は自力で予選突破できるからだ。

また、ナビスコカップだけに限らず、週末のリーグ戦を見据えたマネジメントにも有効活用できる。樋口靖洋監督は「たった30分でもゲームプランを動かせるかもしれない」と含みをもたせた。これは川崎Fが勝った場合に特に効果的で、この試合で予選リーグ突破が決まらない。ならば主力を早々に交代させ、週末のリーグ第12節・ベガルタ仙台戦に備えるのも一手だ。勝っていればもちろん良いが、仮に大差で負けていたら適用すべき考え方となる。

いずれのケースにせよ視野を広く保って戦う90分間だが、よりによって樋口監督はベンチから指示を出せない。直近のリーグ第11節・名古屋グランパス戦で退席処分となり、磐田戦はベンチ入りできない。退席処分となった次の公式戦に該当したわけだが、樋口監督はチームがスタジアム入りした瞬間から別行動を余儀なくされるという。どうやらメインスタンドの一角にあるブースから試合を見つめることになる。代わりに指揮を執るのは小林慎二ヘッドコーチとなる。しかしながら樋口監督は「テレパシーを送ります」と報道陣の笑いを誘ったように、厳しい監視下で隔離されるわけではない。

では交代などの指示は誰が行うのか。当面はもちろん小林監督代行である。しかし最近のJリーグは無線を使用してスタンドとコンタクトできる。無線を所持しているスタッフが樋口監督の横に座っていたら…。そこから先は読者の想像に任せるとしよう。あくまで監督代行としてベンチに座る小林ヘッドコーチは「サッカーのルールが変わるわけではないし、チームコンセプトが変わるわけでもない。十分積み上げてきたものがあるので問題ない」と意に介さず。冷静な立ち振る舞いと落ち着いた口調は風格すら漂う。

とりあえずは監督不在で臨む一戦で、指揮官は[4-2-3-1]をチームに託した。試合前日のい紅白戦では[4-4-2]を試さず、齋藤学を左MFに組み込んだベストなメンバーとシステムでこの一戦に臨む考えだ。

不安があるとすれば「[4-4-2]から[4-2-3-1]に頭の切り替えをする必要があること」(齋藤)のみ。昨シーズン途中から急激に[4-2-3-1]にフィットしたが、ここ2試合はさまざまな理由で[4-4-2]にシフトしていた。これといったメリットはなかったが、名古屋戦は榎本哲也をはじめとする個々の踏ん張りでどうにか勝ち点3を手にした。そのタイミングでシステムを元に戻す決断となったが、距離感や考え方を元に戻す必要がある。

システム変更の理由を樋口監督はこう語る。

「磐田のブロックをどう崩すか。FC東京の[4-2-3-1]と柏の[4-4-2]ではFC東京戦のほうがやりにくそうだった」

本音と建前があるにせよ、対戦相手のスタイルに合わせるサッカーになってしまったことに首を傾げざるをえない。主体性がなく、その場しのぎの変更と言われても仕方がないだろう。偶然このタイミングで本来のシステムに戻っただけだとしたら、次の仙台戦が不安でならない。
次のことはさておき、久しぶりにベストメンバーで臨む試合は単純に楽しみだ。トップ下という本来の居場所に戻る中村俊輔がどのようなプレーを見せるか。スタメン復帰する齋藤が途中出場時同様にキレで相手を圧倒するのか。出場停止明けとなる栗原勇蔵と中町公祐は「もう一度存在感を示す試合」(中町)にできるのか。興味は尽きない。

それだけではない。ベンチメンバーには特別指定選手の長澤和輝(専修大4年)がいる。リードしているラクな展開でピッチに送り出したいという親心と同時に、勝負が決していないシビアな状況で見たい気もする。藤田祥史や端戸仁と並んで攻撃において有効なカードとなるのは間違いなく、チームに選択肢をもたらす。長澤さえいれば「途中出場のほうが効果的」という声をどこからともなく聞こえる齋藤を迷わず先発起用できる。

勝つことで道は拓かれる。さらに言えばマリノスがどのように勝つか。連戦とはいえ、まだ2戦目に過ぎない。「疲労を考えるのは次の試合(仙台戦)から」(富澤清太郎)だろう。文字通りの全力で勝ち点3を目指し、リーグ戦と異なる大会の楽しみをサポーターにプレゼントしてもらいたい。

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