「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

予選突破 -マリノスの名前がある幸せを噛み締めよう [ナビスコ予選 清水戦レビュー](藤井雅彦) -2,047文字-

4-2-3-1_ナビスコ4-4-1-1清水

 

さすがに名前は伏せておくが、清水エスパルスに対するある主力選手のコメントは辛辣なものだった。

「今年戦った中でも1、2を争うくらい弱い相手だったんじゃないか」

試合序盤こそファウル気味のチャージで中村俊輔を警戒していた場面が散見されたが、それもほんのわずかな時間だけ。その後はリーグ戦で対戦したとき同様にマリノスに自由を与えた。あれほどまでにボールにプレッシャーをかけないチームも珍しい。かといって全体で引いて守るわけでもない。全体をコンパクトに保つ意味を履き違えているとしか思えない戦いぶりに、マリノスの予選リーグ突破は前半45分間で確実となった。

マルキーニョスの一撃は相手に致命傷を負わせるには十分すぎた。押し込まれながらのスコアレスで折り返せれば戦意を維持できるだろうが、失点した瞬間に心が折れる。結果が出ていないチームにありがちな傾向だ。前半終了間際、兵藤慎剛がタイミング良く右サイドのスペースに縦パスを通すと齋藤学は相手DFを引きつけてからの切り返しで難なくかわす。マイナス気味に送ったマルキーニョスへのパスは優しく、愛情がこもっていた。マルキーニョスが決めるシュートの多くはグラウンダーで、低く鋭く重い弾道がゴールネットを揺さぶった。

後半のゲーム展開について多くを述べる必要はないだろう。「省エネサッカーだった」と中村俊輔。相手が前へ出てこないのであれば無理をして前線へボールを運ぶ必要はない。引き分けでも予選突破が決まるシチュエーションなのに、加えて1点のリードがある。マリノスは残り45分の試合を何事もなく終わらせるだけで十分だった。もちろん清水が果敢にプレッシャーをかけてくれば、いなすようにボールを回せばいい。全体の距離感が良く、ボールを失ってもセカンドボール争いを制圧した。すると、あまりにもあっけない形で藤田祥史の追加点が生まれ、これが決勝点となる。

残り20分に関しては失点もあり、ややバタついた感は否めない。「自分たちで疲れる試合をしてしまった」(兵藤)。中村に代わって入った佐藤優平がチーム戦術に馴染まず、全体のバランスが悪くなってしまった。前回のナビスコカップ第6節・ジュビロ磐田戦では中村に代えて端戸仁を起用したのに、なぜこの日は佐藤だったのか疑問が残る。それでも佐藤がトップチームの公式戦で経験を積めたことをポジティブに捉えるべきだろう。目標を達成しながら若手にチャンスを与えられる機会など限られているのだから、有意義な試合だった。

リーグ戦から変わった顔ぶれについて触れておくと、GK六反勇治に不安は一切ない。セービング、クロス対応、ビルドアップなど、すべてにおいて及第点以上の出来を見せた。何よりゴールマウスを守る姿が頼もしい。マイペースな性格がプラスに働いていることもあるのだろう。緊急出場となったベガルタ仙台戦もそうだったが、慌てない立ち振る舞いが周囲に安心感を与える。六反には中断期間前ラストとなるサガン鳥栖戦まで無事にプレーしてもらいたい。

もう一人の左SB奈良輪雄太についての判断は難しい。冒頭でも述べたように、相手との力関係に明らかな差があった。具体的に言うと、守勢に回る場面は皆無に等しく、課題とされる守備を求められる機会が少なすぎた。後半に記録したアシストにしても清水守備陣のマークミスによるところが大きい。序盤から過緊張に陥ることなく堂々とプレーしていたこと、アグレッシブなスタイルを貫いた点は評価できる。しかし、この1試合だけでドゥトラとの優劣を判断することなど絶対にできない。

最後に、ナビスコカップにおける決勝トーナメント進出を喜びたい。真剣勝負の場が増えるのだから、選手とチームの経験値は確実に上積みされる。成功と失敗のいずれが待ち受けているか分からないが、どちらにしてもマリノスにとっての血肉となる。アウェイゴール方式のあるホーム&アウェイという現在の日本サッカーにおいて異質なトーナメントを戦えるのは純粋に楽しみでもある。

決勝トーナメントからはACLに出場していた4チームが合流し、予選リーグを突破した4チームと合わせた8チームで覇権を争う。18チーム中8チームが生き残った。その中にマリノスの名前がある幸せを噛み締めよう。いろいろな妄想を膨らませつつ、準々決勝の対戦相手が決まる今月30日を待つ。

 

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