「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

【無料記事】こういうときもある-藤井雅彦の大宮戦マッチレビュー-

サッカーは90分の中で何が起こるか分からない。マリノスはそのことを前節の鹿島アントラーズ戦で実体験として持っている。相手GKの信じられないようなミスで先制したことに始まり、古巣相手に圧倒的なパフォーマンスを見せていたマルキーニョスが前半終了間際にまさかの退場処分。だが、10人になったことでチーム全体の結束力は高まり、集中力を増した選手たちは研ぎ澄まされた。その結果、2-1の勝利を手にする。

大宮アルディージャ戦では後半に相手が一人少ない状況となり、残り時間はロスタイムも含めて約30分あった。数的優位に立ってからは大きなピンチはなかった。前半に村上和弘、後半の立ち上がりにノヴァコヴィッチに決定機を許したが、前半は榎本哲也が指先でボールに触れ、後半はバーが味方した。「1点取れば簡単なゲームだった」と栗原勇蔵が振り返ったとおり、1得点はすなわち勝ち点3獲得を意味していた。

結果的にその1点が入らず、スコアレスドローで試合終了のホイッスルが鳴り響いた。残留を争う大宮は試合開始前の時点で、同じく残留を争うアルビレックス新潟やセレッソ大阪の勝利の報を耳にしていたであろう。そのため是が非でも勝ち点3が必要な試合だったはず。だが現実は厳しい。前半からマリノスに攻め込まれ、後半にはズラタンの退場によって封的不利となった。この時点で「相手は引き分けでOKになった」という中澤佑二の見方はおそらく正しい。大宮の選手交代を見ても明らかで、攻撃的なカードであるチョ・ヨンチョルは最後までベンチに座ったままだった。それだけでなくSBをこなせる渡部大輔を終盤に投入してドロー狙いの交代策を試みている。ベルデニック監督の采配は極めて現実的なものだった。

そして、それを打ち崩せないのが、いまのマリノスである。シュート数は大宮の3倍となる15本を放ち、小野裕二は数回の決定機を含む出場選手最多6本のシュートを打った。それでも大宮DFの体を張ったシュートブロックとGK北野貴之のセーブに阻まれてしまう。小野は「後半は壁のように人がいた」と相手の守備陣形を形容して首を横に振った。勝ち点1狙いで守備に一本化されたチームが強度を増す典型的なパターンで、マリノスは術中にハマってしまった。

試合全体を通じて、攻撃のクオリティーが低かったわけではない。最近ではもっとも能動的にボールを動かし、パスをつないでシュートに持ち込めていたからだ。それは齋藤学が「内容はネガティブになるようなものじゃない。相手が同数のときでも狙い通りのサッカーができていた」と語っていたとおりである。最終ラインからのビルドアップ、中盤でのボール回し、サイドをある程度えぐってからのクロスと、効率良く攻めていた。バランスを崩した場面のみ相手にカウンターでチャンスを献上したが、それ以外に大宮はほとんどチャンスがなかった。それは攻守ともにバランスが良かったことの裏返しでもある。

アタッキングサードでのアイディアが足りなかったとも思わない。例えば78分、齋藤は強引に左サイドを突破し、中村の決定機を演出している。鹿島戦で小野が強引な突破から中村俊輔のゴールを導いたように、このゲームでは齋藤と小野が高い位置で仕掛けることもできていた。パスもドリブルもクロスも悪くなかった。

足りなかったのはストライカーの存在だけである。決定力が足りなかったとも思わない。決定力は個に依存して当然の問題で、小野や齋藤は短期間で劇的にシュート能力を向上できない。つまり戦前からの不安が的中し、マルキーニョス不在がすべてのゲームだったのである。鹿島戦からベンチ外となっている大黒将志の存在が気になるところだが、こちらは樋口靖洋監督のマネジメント能力の欠如が背景にはあり、これもいまさら言い始めてもキリがない。

最良の結果こそつかめなかったが、大宮戦の内容を続けていけばいい。「こういうときもある」(栗原勇蔵)のだ。これほどうまくゲームを運べる試合も少ないだろうし、結果的に守備的なプランを選ばなければいけない試合も出てくるだろう。それでも理想を大宮戦の内容に置いておくのは悪い話ではない。と同時に、理想のサッカーができても必ずしも勝利できるわけではないことも、この一戦で得た教訓としたい。

 

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