「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

「初戦で当たりたくないチームは1チームだけあった」 パーフェクト勝利でナビスコ準決勝進出!次は柏! (藤井雅彦)-2,356文字-

誤解を恐れずに言えば、マリノスと鹿島アントラーズに大きな力の差があるとは思わない。第1戦が2-0、第2戦は3-1。アウェイゴール云々を語る以前に2戦2勝したマリノスがヤマザキナビスコカップ準決勝進出を決めた。トータルスコアは5-1だ。第2戦での失点を除き、マリノスはパーフェクトな試合を演じたと言っていいだろう。

とはいえ、この数字だけで両チームの力関係を判断するのは危険だ。とりわけ第2戦のスコアに至った背景として、その試合に臨む姿勢と状況判断はあくまで第1戦を踏まえたもの。初戦の結果が反対になっていたとしたら、マリノスは第2戦でおおいに苦しんだはず。それは他会場の結果を見ても当てはまる。例外なく第1戦を制したチームが準決勝進出を決めたのだ。

やはり「第1戦の結果が大きかった」(富澤清太郎)。それが1-0の最少得点差ではなく、大きなリードを奪う2-0というスコアで失点しなかったことに意味があった。その流れを作ったという点においては「(中村)俊輔のFKが大きかった」(中澤佑二)。中村の直接FKがゴールネットを揺らした瞬間、マリノスは圧倒的優位に立った。アウェイゴールだけは許すまいという鹿島を揺さぶり、前へ出てきた隙を突いてカウンターを狙うというゲームプランが機能した。
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第2戦においても同様のことが言える。「ウチは前へ人数をかけるしかなかった」と先発出場した本山雅志が振り返るように、どのような形であれ鹿島は得点を狙うしか勝ち上がる道はなかった。試合序盤から圧倒的に前がかりなわけではなかったが、時間経過とともに焦りが生じ、無意識のうちに注意が散漫になる。

第2戦の勝因に特化して言うと、試合序盤を無失点で乗り切ったことに尽きる。鹿島は通常よりも低い位置でボールを回し、プレスを誘っていた。特にマリノスのダブルボランチを引き出してからバイタルエリアを使うという意図があったことは明白。しかし、そこのマリノスは「あえて出なかった」(富澤)、「我慢してスペースを消した」(中町公祐)。相手の誘いに乗らず、コンパクトに保ったまま中盤で構えた。鹿島は途端に攻め手を失い、ダヴィと大迫勇也へのロングボールを放り込むしかなくなった。2トップの能力はたしかに高いが、正対している状態ならば中澤佑二とファビオの強さも相当なものだ。セカンドボール争いで圧倒的に優位に立ったわけではないが、少なくとも鹿島に主導権を渡したわけではない。

スコアレスのまま時間経過していけばマリノスが勝利に近づく。鹿島は複数得点を挙げるための時間的リミットがある。そして相手をさらに厳しい条件に追い込んだのが齋藤学の豪快ミドルシュートだ。シュートそのもののインパクトもさることながら、第1戦を2-0で折り返したマリノスが先制に成功する。それは2試合180分を終えて延長戦に突入する可能性を消すという意味がある。

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4-4-2鹿島 齋藤が決めた時点で鹿島は2点ではなく3点が必要だ。と同時に3点取ればトータルスコアを3-3に持ち込み、さらにアウェイゴールで上回って勝利できる。これはマリノスが加点しても同じ条件で、実際にマルキーニョスが追加点を挙げると鹿島は4点必要になった。ただし4点取れば鹿島の勝利。このように決着は必ず90分間でつく。裏返すと同点に持ち込んで延長戦やPKまでもつれ込ませるという策は通用しなくなる。齋藤の一撃は鹿島から時間と選択肢を奪った。

マルキーニョスが決定的な2点目、あるいは4点目を奪った時点で決着はついた。その後にダヴィにゴールを献上し、奈良輪雄太にプロ初得点というトピックが生まれたものの、勝敗を語るという点では多くの意味を持たない。大会2連覇中の鹿島相手に完勝を収めた。中澤が「強い鹿島に勝てたことは素直に嬉しい」と手放しで喜びを表現したことからも、その価値がわかる。

ナビスコカップは準決勝進出が決まり、次の対戦相手は柏レイソルとなる。組み合わせ抽選会直後に樋口靖洋監督が「初戦で当たりたくないチームは1チームだけあった」と語ったのが柏だ。ここ数年はリーグ戦で勝っておらず、昨年末の天皇杯準決勝で敗れたのも記憶に新しいところ。いずれの試合もマリノスらしさを出せず、相手に上回られている。準決勝第1戦は9月とだいぶ先になるので、それまでに何らかの活路を見出したい。もちろん2ヵ月以上先の対戦なので、現在とは両チームともに状況が大きく異なっているはず。マリノスはリーグ戦の順位が気になり、対する柏はACLで唯一勝ち残っているJリーグチームなのだ。

柏との対戦に一抹の不安を覚えつつも、やはり『四強』にマリノスの名前が残っていることを嬉しく思う。トーナメント戦における残り試合数は最大で3試合。つまり3連勝すれば頂点に立てる。その権利を得ているのはわずかに4チームだ。そして今週末から再開するリーグ戦に弾みをつけたという意味でも、この2連勝を大きな価値がある。マリノスの戦い方は大きく変わっていない。一方で勝ち慣れてきたことについては変化の胎動が見て取れる。

マリノスは確実に強くなっている。

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