「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

Jリーグが帰ってくる [J14節大分戦プレビュー](藤井雅彦) -2,348文字-

約1ヵ月の中断期間を経て、ようやくJリーグが帰ってくる。これがナビスコカップ準々決勝に進出できず予選リーグで敗退した10チームのサポーターの心の声だろう。オフやキャンプを経て、チームがどのように進化、あるいは変化しているのか。マリノスの再開初戦の相手となる大分トリニータのサポーターはさぞワクワクしているはずだ。

それに対して、マリノスサポーターは良くも悪くも驚きなくこの一戦を迎える。というのも、相手よりも2週間早く再開を迎えているのはナビスコカップの予選リーグを勝ち上がった恩恵である。そして準々決勝・鹿島アントラーズとの2試合の戦いぶりは序盤戦をそのまま踏襲したものだった。「まずはいままでやってきたことを忘れていないと確認できた」(樋口靖洋監督)。安定感ある戦いで2連勝を飾り、サポーターを安心させた。だから大分戦で真新しい布陣や選手起用がないと知っている。

4-2-3-1_best とはいえ、この事実はそのままマリノスのアドバンテージとなるだろう。大分側に立つと、試合からしばらく離れていた状態での初戦は、相手云々よりも自分たちの力量や試合勘を把握しにくい側面がある。何ができて、何ができないのか。あるいはコンディションはどうなのか。これらを分かっているのと分かっていないのでは大きな違いがある。マリノスの場合、前記した樋口監督のコメント通り、やるべきことが整理され、この中断期間でさらにブラッシュアップされた感すらある。

システムは変わらず、メンバーの顔ぶれにも変化はない。唯一、日本代表招集とそれによるコンディションを考慮してナビスコカップ2試合を回避した栗原勇蔵がファビオに代わって先発するのみで、そのほかの不動の10選手だ。中断期間中に行った韓国遠征や新潟県十日町キャンプを経て、奈良輪雄太や熊谷アンドリューは確実に成長している。指揮官もそれを認めており、ナビスコカップでは短時間ではあるものの両者とも2試合連続で途中出場している。しかしながら先発に食い込むには至っていない。これは彼らのアピール不足ではなく、主力組の順調さをポジティブに解釈すべきだろう。「ポジションは勝ち取るもの」という樋口監督の言葉は本質を突いている。

下バナー

3-4-2-1大分 ベテラン勢や中堅組が揃って好調を維持する中で、スタメンでは最年少の齋藤学が調子を上げてきたのは心強い。といってもナビスコカップ準々決勝2試合でのパフォーマンスは「ミスも多かったし、あまり良くなかった」と振り返る本人の見方がおそらく正しい。第2戦で痛快なミドル弾を叩き込む前は不用意なボールロストでピンチを招く場面が散見された。運動量豊富に動いて後方のドゥトラをサポートする動きは評価できても、そこから反転して攻撃に移った際の貢献度は低かった。

ただ、そういった負の流れを一変させてしまうだけの破壊力が、あの一撃には秘められていた。本人もバイオリズムの上昇を感じ取っているのだろう。今週は意欲的に居残りシュート練習に取り組む姿勢が目立った。もともと格下相手には滅法強く、力差をしっかり見せられるタイプの選手だ。大分は3バックを採用するようだが、ドゥトラとの連係次第でサイドでは比較的簡単に1対1の状況を作れるはず。「どこで優位性を保つか」と意気込む齋藤。左サイドからチャンスを量産できればマリノスは勝利に近づく。

彼には大きな可能性が秘められている。端的に言えば、日本代表招集の可能性である。4連戦のうちの3試合を終えたあとの7月15日には7月下旬に韓国で行われる東アジア杯に臨むメンバーが発表される。そこにはシーズンインを控えた欧州所属プレーヤーは含まれないとのことで、国内組にとっては願ってもないチャンスが訪れる。現日本代表の前線は海外組が大半を占めており、裏返すと今回に限ってはJリーグで活躍するアタッカー陣にスポットライトが当たる可能性が高い。

もちろん越えなければいけない壁はまだある。課題の一つを中澤佑二が指摘した。詳細は来週火曜日発売のサッカーダイジェストに掲載される連載コラム『NAKED』に譲るため、ここでは一部を抜粋する。

「自分の間合いではない場面で無理に仕掛けてボールを失ってしまうのではなく、周りの選手を使ってもう一度プレーをやり直し、次のチャンスをうかがうことを意識して練習に取り組んでいけば、相手にもっと驚異を与えられる選手になれる。34試合トータルで良い選手と言われるようになってほしい」

 経験豊富なベテランの言葉は、多くの示唆に富んでいる。齋藤に一本調子なところがあるのはスタンドから見ていても明らかだ。自分のリズムをつかんでしまえば無双となるが、逆にミスなどでリズムを崩すと調子が戻らず脆い面をのぞかせる。だから彼は今後、プレーの波を小さくしつつ、どんなシチュエーションで力を発揮できる選手にならなければいけない。

チーム全体としてますます磨きがかかっているだけに、そこに個の成長が加わればマリノスは鬼に金棒だ。その筆頭候補が齋藤学。再開初戦となる大分戦で背番号11の存在感をおおいに“魅せて”ほしい。

 

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ