「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

いまのJリーグに簡単に勝てるチームなどない [J14節大分戦レビュー] (藤井雅彦) -2,247文字-

 

ピッチ上を襲った強風は両チームにとって最も厄介な敵となった。向かい風のエンドではハイボールがすべて押し戻され、目測を誤る選手が続出した。相手はパワーを持って前へ出られるため、それに対応するために下がらざるをえない。前後半で平等に風の影響を受けたという考え方もあるが、試合の趨勢を決める前半にビハインドの風に翻弄されたマリノスはやはり不利な立場だった。

4-2-3-1_best 大分トリニータの先制点はまさに風の恩恵を預かったもの。ゴールシーンを巻き戻すと、GK榎本哲也のゴールキックが風によって押し戻され、マリノス陣内で大分ボールとなる。大分は前線中央に起点を作り、右サイドへ展開。為田大樹はすかさずアーリークロスを送り込んだが、このボールは追い風参考とはいえワールドクラスだった。「本当にそこしかないというところにピンポイントでやられた」と栗原勇蔵。ヘディングを決めた松田力に最後に対応していたのは栗原だが、ボールが入ってくる瞬間は高松大樹と2枚を同時に担当するようなシチュエーションになっていた。そのポジショニングを迷った一瞬にとてつもなく鋭利なクロスが飛んできた。

もちろん後半に入ると立場は逆転し、マリノスは追い風の後押しを受けて圧倒的有利に試合を進めた。後半45分間だけでCKを9本獲得したことからも、ほぼワンサイドゲームを展開したと分かる。圧倒的に攻め込み、後半立ち上がりの51分に左CKからのこぼれ球を兵藤慎剛が豪快に決めて同点とする。理想的な展開で「いい時間帯に同点に追いついたので逆転できると思った」(兵藤)のはプレーヤーだけではないだろう。

しかし最後までチーム2点目は生まれなかった。理由を断定するのは難しく、さまざまな要因が考えられる。例えば中村俊輔は「マルキも(齋藤)学も一歩遅かった。動きの質というか動き出しの回数が鹿島戦にくらべて少なかった」とコンディション面を理由に挙げた。特にマルキーニョスがボールに関与する回数は少なく、鹿島アントラーズ戦で見せたキレには程遠かった。チームのトップスコアラーの不調がそのまま結果に直結する典型例とも言える。

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同点後の戦い方について言及したのは同点ゴールを決めた兵藤だ。「同点に追いついてからの10~15分はサイドの高い位置に起点を作ってバリエーションある攻撃ができた。でもそのあとは風に乗せられて慌ててしまった。大分が慌てていたのは分かったので、あの展開で自分たちがバタバタしてしまったのがもったいなかった」。得点を焦るあまり、攻撃に緩急をつけられず一本調子で攻めていた。

3-4-2-1大分 前記したように後半だけで9本あったCKのチャンスも生かしきれず。中村から惜しいボールが何度もゴール前に送られ、アウトスイングになる左CKは兵藤に譲るという工夫も実らない。「CKをたくさん取れたのは良かったけど、相手が慣れてきて、グッと集中力を高めてしまった」(樋口靖洋監督)。結果、接戦で相手よりも頭一つ抜きん出ることができずに試合終了のホイッスルが鳴り響いた。
指揮官の采配についても触れておこう。今シーズンは得点がほしい状況で藤田祥史を前線に送り込むのが常套手段となっているが、調子が悪くてもここぞの場面で得点力を発揮するマルキーニョスを下げるわけにはいかない。そこで残り10分を切った81分に富澤清太郎に代えて藤田を投入し、中村をボランチに下げた[4-4-2]へ移行。だがこの采配が裏目に出た。疲労が蓄積した中村はセカンドボール争いで効力を発揮できず(そもそもそういうタイプの選手ではない)、カウンターからピンチを招いた。樋口監督はそれを認めるように「少しバランスが悪くなった印象がある。システムを変えずに人だけ変えるという考え方が必要だったかも」と歯切れが悪い。92分に端戸仁を投入したことも右に同じだ。「練習を見ていてどこかで使いたいと思っていた。でも入れるならもっと早いタイミングだったかもしれない」と反省の色が濃く、接戦だからこそ判断力と決断力が必要となる。つまり的確なタイミングでのアクションが求められる。その点で樋口監督の動きはお世辞にもチームを勝利に近づける采配とは言えなかった。

3位のチームが最下位のチームと引き分けた。この事実だけを切り取れば取りこぼしという声が上がっても仕方がない。ただし、この日は強風というエクスキューズがあった。さらに大分の90分間ファイトする姿勢は素晴らしく、中澤佑二は「相手も勝つために力をすべて出していた」と称賛している。順位に関係なく、いまのJリーグに簡単に勝てるチームなどないことを再認識させられた。

「この試合の結果が取りこぼしという捉え方になるかどうかはシーズン終了後に分かる」。樋口監督と選手はそうならないように、まずは4連戦のうちの残された3試合でベストを尽くして勝ち点を取り戻さなければいけない。

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