「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

熱暑の戦い [J15節セレッソ大阪戦プレビュー] (藤井雅彦) -2,251文字-

セレッソ大阪戦のポイントについて問われた樋口靖洋監督は間髪いれずにこう答えた。

「大阪特有の暑さでしょう」

顔は笑っているが、あながち冗談というわけでもないだろう。横浜と比較したとき、気温が同じでも湿度は圧倒的に大阪のほうが高い。まるでサウナにいるかのような感覚に陥り、苦しむ。昨年は8月にアウェイでC大阪と対戦し、15試合負けなしがストップ。そこから3連敗を喫して順位を落とした。樋口監督は「去年のワーストゲーム。間違いなくチーム全体が一番動けなかった試合」と苦い表情で振り返る。まったく足が動かず、考えられないようなミスを連発して失点を喫し、0-2で完封負けした。

4-2-3-1_best 先日の大分トリニータ戦での強風も同じだが、条件は両チームに平等だ。強風も大雨も、そして高温多湿も両チームに対して同じように襲いかかる。そこに有利不利などないのかもしれない。マリノスには確かにベテランが多いが、日本に四季があり、その中に真夏が含まれていることはもっと以前から分かっている。

それを承知の上で、セレッソ戦のポイントはベテランの、特に前線の選手が足を止めずに戦えるかどうかだろう。大分戦でのマルキーニョスは低調な出来だった。もちろん一発で仕留める決定力があるからベンチには下げられない。ならばマルキーニョスに走ってもらうしかない。中村俊輔とともにプレスのスイッチ役を演じてもらい、エネルギッシュな面々がフォローする形を取るべきだろう。

ボランチの中町公祐は言う。「ウチの守備は前にいるマルキとシュンさん(中村)が大事なので、二人が連戦でちょっと足が止まっていると難しい部分も出てくる」。大分戦でも中町は長い距離を走ってプレッシャーをかけたが、周囲との連動性が乏しく空振りに終わった感が強い。これは中町だけでの責任ではなく、そうなると中盤の底にスペースが生まれ、逆に相手にチャンスを与えかねない。 ・・・

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4-2-3-1C大阪 よくある話ではあるが大事なのは、プレスに行くか、行かないのかの判断だ。もともとマリノスはチーム全体でプレスに走り、その効力がチームの好不調のバロメーターとなっている。序盤戦、チームが最も輝いていた時期は前線からのプレスが面白いようにハマってボールを奪えていた。これは樋口監督が築き上げてきたスタイルの一端で、夏場だからといった簡単に放棄するのは得策ではない。連戦といってもまだ2試合目なのだから、まずは強気にプレッシャーをかけるべきだろう。

ただし試合が始まって想定外の事態が起きる可能性も否定できない。大分戦の強風はそれに該当し、セレッソ戦でも想像以上の暑さがマリノスを苦しめるかもしれない。ただ暑いだけでなくモチベーションを下げるかもしれない。そういった展開でマルキーニョスや中村が足を止めれば、マリノスのプレスは機能不全に陥る。中町や兵藤慎剛、齋藤学の単独プレスでは意味がない。

あるいはチーム全体でプレスを一時的に停止させる判断も必要かもしれない。好例は先日のナビスコカップ準々決勝第2戦・鹿島アントラーズ戦だ。第1戦を2-0で勝利したことで得たアドバンテージを生かし、無理に前へ出るのをやめた。相手が普段よりも低いラインでビルドアップを開始したことを見抜いた中町と富澤清太郎はあえて自陣に構えた。これは夏場の戦い方としても最適で、省エネでエネルギーを溜める時間帯があってもいい。樋口監督は「時間帯やコンディションにもよる。間延びしたらやられてしまう。どこでコンパクトにするか」と話し、プレスの一時停止を否定しなかった。

この際に大事なのは判断を誤らないことの一点に尽きる。ベタ引きではなく、少しラインを下げた位置でコンパクトに保ちつつ、ボール奪取の機会をうかがう。攻めるための守りを意識しなければ意味がない。そしてどこかのタイミングでギアチェンジし、攻勢を仕掛ける。失点のリスクを避けると同時に運動量の浪費を抑え、必要なタイミングでエネルギーを放出する。

と、ここまで理想論を語ってきたが、そんな簡単にいかないことは百も承知だ。サッカーは相手あってのスポーツで大阪がどのような出方をするかで思惑通りの展開にはならない。だから、このようなシチュエーションを頭の片隅を置きつつ試合を進める程度でいいだろう。繰り返しになるが、まずは積極果敢にボールを奪いに走り、環境と相手と、そして自分たちの状態を確かめる。すべてにおいて優位性を保てるならば、普段通りのサッカーを展開すればいい。型を出せたときのマリノスは間違いなく強い。

一方で、そうならなかった場合の準備を怠ってはいけない。どこかのタイミングで訪れる理想と現実のギャップを想定し、それでも勝ち点を積み上げられるようにならなければいまの順位をキープするのは難しい。タイミングとしては、セレッソ戦は今後に向けた試金石となる一戦かもしれない。

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