「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

樋口監督の交代の遅さを指摘する声もあるが、現状での問題はそこではない [J15節C大阪戦レビュー] (藤井雅彦) -2,518文字-

結果が芳しくなかったときだけ論点を内容にすり替えてはいけない。それは逃げに等しい。これまで内容が伴わなくても結果を手にしてきた試合もあったはず。そんなとき選手はこぞってこう言っていた。

「ボールを持たれていたのではなくて、相手に持たせていた。主導権はこちらが握っていた」

4-2-3-1_2013 まるで今回の試合におけるセレッソ大阪陣営のコメントのようだ。マリノスはたしかにボールを保持していた。しかし、そこに大きな意味はない。教科書通り引いて守る相手を正攻法でこじ開けようとしたが、なかなか崩せない。当たり前である。相手は守備意識が高く、不必要にラインを上げなかった。ボールを奪ってからは柿谷曜一朗を筆頭とするエネルギッシュな若手でカウンターを仕掛けるシンプルな狙いだった。

試合後、樋口靖洋監督は「結果は残念だが、内容はポジティブに捉えている」と話した。前半途中からの攻撃が相手に驚異を与えていたのは紛れもない事実だろう。齋藤学や兵藤慎剛が繰り出すダイナミックな動きで揺さぶり、ボールを出し入れしながらタイミング良く効果的な縦パスも入っていた。齋藤が放ったポスト直撃弾のいずれかが決まっていれば展開は大きく変わったはず。

しかし、それ以外に決定機を作ったと胸を張れる場面はなかった。齋藤にとっては「決めるべき場面を決めきれなかった」という試合かもしれないが、チームとしては違う。齋藤のポスト直撃シュートはいずれも難易度が高いシュートで、そもそも齋藤でなければシュートにも到達していない。ほかの選手が決定機を迎えた場面は、せいぜいセットプレーの場面くらいだろう。・・・

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4-2-3-1C大阪 セレッソがラインを低くして守っていたから攻め込んでいたように見えただけに過ぎない。思惑通りの形で先制したセレッソにとってはラクな展開だった。ボールポゼッションで後手に回っても、最終局面でしっかり体を張ってフリーでのシュートを許さなければいい。前がかりになるマリノスに対してカウンターは効果的で、柿谷と南野拓実をシンプルに使って仕掛けるだけで良かった。マリノスにとって、最終ラインの背後にスペースが生まれて戻りながらの守備をしいられるのは最も苦手とする展開だ。セレッソは労せずしてそのような状況にできた。

手応えを感じるほどの攻撃ならば、ゴールと結果で完結する必要がある。GKとの1対1を作り出したわけではなく、決定的なシュートが相手GKのスーパーセーブに阻まれたわけでもない。ただ押し込んでいたことで攻撃を良しとしては、今後も発展は期待できない。残念ながら価値観を抜本的に見直す必要がある。

そして攻撃よりも心配なのが、あまりにも淡白な守備である。それが個に起因するのか、はたまた組織の問題なのかは判断が難しいところ。「粘りがない」という栗原勇蔵の言葉は的を射ているが、ほかならぬ栗原のパフォーマンスがなかなか上がってこない。隣にいる中澤佑二の危機察知能力や展開予想と比較すると、どうしても粗さが目立つ。身体能力でカバーする場面もほとんどない。

組織の側に目を移すと、失点場面に象徴されるようにバイタルエリアにスペースを作ってしまうのはいまに始まったことではない。「ウチはバイタルエリアからやられている。いてくれるだけでいいんだけど」と中澤。前線からボールを奪いに行くスタイルで、ボランチが相手のボランチにプレッシャーをかける変則的な戦術を採用している。そのためプレスが効力を発揮しない場合、どうしても脆い。端的に言うと、脇を締めるような守備ができていない。

序盤戦の好調は連動したプレスありきだったので、すべてを放棄するのは得策ではない。とはいえ、もう少しバランスを考えながらボールに対してアタックすべきだろう。やや消極的に見えるかもしれないが、いまのチームに複数得点は期待できない。先制点を奪われた瞬間、勝利が絶望的に遠のいてしまう。最悪でも0-0の時間帯を伸ばす必要がある。

それはベンチに有効な駒がいないことも理由の一つだ。樋口監督の交代の遅さを指摘する声もあるが、現状での問題はそこではない。セレッソ戦の場合、0-1の展開でいったい誰をどのように投入すれば良かったのか。記者席から見る限り、動きの量と質が低下していたのはマルキーニョスと中村俊輔だった。しかし彼らはレジェンドだ。格の話ではなく、一発でゴールを射止める特殊能力を持つという意味において、彼ら以上の選手はJリーグ全体を見渡してもそうそういない。前者は卓越した決定力、後者はセットプレーという武器を所持する。事実、マルキーニョスは空砲とはいえこの試合でも1ゴール記録した。得点が欲しい場面で彼ら二人をベンチに下げるなど暴挙に等しい。藤田祥史をもっと早く投入したいところだが、誰と交代すべきか。齋藤と兵藤の効果的なランニングを考えると交代選手は見当たらなかった。

以前から述べているようにスタメン11人の補完関係は素晴らしい。ゆえに交代でバランスを崩す可能性も高い。交代でチームが加速するよりも、トーンダウンしてしまう可能性のほうが高いというわけだ。補完関係やコンビネーションを無視した卓越した個がベンチに控えていれば違うのかもしれない。前節の大分トリニータ戦以上に、補強の必要性を痛感させられるゲームとなった。

この敗戦をもって、マリノスは今シーズン初めてACL出場権を自動的に獲得できる3位以内から転落した。首位・大宮アルディージャとの勝ち点差は『8』に開いた。次節、その大宮との一戦は文字通りの正念場となるだろう。

 

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