「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

レジェンド二人が輝いた試合 [J16節大宮戦レビュー] (藤井雅彦) -2,000文字-

まずは一言、素晴らしかった。

個々の働きや仕事量、チームとしての機能性も素晴らしかったが、それ以上にモチベーションやテンションといった目に見えない精神的な部分で、マリノスの選手たちは今季ベストクラスのパフォーマンスを披露した。選手紹介前に行われたミュージカル『レ・ミゼラブル』出演者によって披露された「民衆の歌」が士気向上につながったのかもしれない。また、この試合に対するサポーターの熱意も賛辞に値する。ピッチ内外におけるスタジアムの雰囲気作りも勝因の一つとして数えるべきだろう。

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ピッチ外の熱は確実にピッチ内へと伝播していった。「みんな気合いが入っていたし、このシチュエーションで気合いが入らない選手はいない」(小林)。リーグ再開から2試合勝ちなし(1分1敗)と苦しい状況で、しかも相手は首位をひた走る大宮アルディージャ。試合前は恐ろしくて口にできなかったが、仮に負けていれば勝ち点差は『11』に開いていた。まだシーズン折り返し地点にも到達していないとはいえ、数字上はかなり厳しい戦いをしいられる。また、今シーズン初の連敗によって負う精神的ダメージも大きかったはず。

危機感とともに試合に臨んだ。それを目に見えるように体現したのがマリノスがJリーグに誇るタレントであるマルキーニョスと中村俊輔だった。マルキーニョスの「大分戦、セレッソ戦と勝てなかったので勝利だけを目指して臨んだ」という言葉は実にシンプルだが、これがすべてなのである。この試合は勝ちが必要だった。ここ2試合、ゴール場面以外で低調だった彼も、この日ばかりは鬼気迫る表情でボールを追いかけた。「できるなら、いつもやってほしい」という周囲の声があるとすれば、それは間違いというものだ。人間誰しも毎回同じパフォーマンスは発揮できない。さまざまな条件下で発揮できる力は変わってくる。でも、やらなければいけない日がある。彼にとって、その日は大宮戦だった。

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4-4-2大宮 中村のパフォーマンスも特筆モノである。攻守の切り替えが恐ろしく早く、二度追いや三度追いを厭わない。前回号で懸念していたポジションを下げすぎる悪癖もほとんど見られず、常に高い位置で攻守に存在感を発揮した。試合後、樋口靖洋監督は「俊輔には今日はできるだけトップ下にいて攻撃のタクトを振ることはもちろん、攻守の切り替えのスイッチになるのも重要だという話をしていた」と明かす。肝心の本人は暑さによってバテていたため報道陣への対応を避けたが、指揮官の考えをプレーで見せたからこその疲労困憊ではないか。わざわざ下がってボールを回さなくても、高い位置からの守備で主導権を握れることで攻撃はスムーズに運ぶ。負担は増えるが、チームが勝つための最善策だ。

前線のレジェンド二人が輝いた試合は、特に前半はほとんどの時間を相手陣内で過ごした。「前半に関してはほぼパーフェクトな内容だったと思う」(樋口監督)。ただし、大宮の低調さも一因として挙げる必要がある。外国籍2トップと左SBのレギュラー3選手を欠いたことも影響しているだろうが、それだけではない。両SBの裏を簡単に使われ、バイタルエリアでの厳しさもない。マルキーニョスのポストプレーに相手CBは完敗。齋藤や兵藤慎剛、あるいは3列目から上がった中町公祐が相手の間でボールを受けても、出足が遅く、いとも簡単にボールを回されてしまう。首位にいるべきチームの姿ではなかった。

何かしらの理由で本来のパフォーマンスを出せなかったのだろう。この日は毎年のように残留争いをする昨シーズンまでの大宮でしかなかった。したがって、マリノスが低調なチーム相手にしっかりと“力の差”を見せたということ。それは今シーズン序盤の戦いぶりと酷似している。チーム状態が芳しくない相手に対して、地力の差を見せつけて勝ち点3をもぎ取る。アベレージの高さで相手を圧倒したのはこの日が初めてではない。

次の試合も同じようにテンション高く臨めるかは分からないが、まずは絶対に勝利が必要な場面で持てる力を存分に発揮したことに価値がある。窮地を乗り切り、ひとまずは踏みとどまった。逆風が吹いていたように見えたが、体の向きを変えた瞬間に追い風となる。次は勝ち点で並ぶ浦和レッズと再び上位対決となる。

 

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