「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

マリノスは今シーズン一度も連敗していない [J23節・浦和戦プレビュー] (藤井雅彦) -2,363文字-

「残り12試合あるので正念場はまだまだ先にある」

試合前日、樋口監督は落ち着いた様子で語った。以前から「残り5試合でどの位置、首位とどれくらいの勝ち点差にいるかが勝負」と話しており、まだ10試合以上を残している段階で本当のヤマ場は訪れないのかもしれない。

4-2-3-1_2013小椋 しかし、である。マリノスは今シーズン一度も連敗していない立派なチームだ。「負けたあとの試合でのリバウンドメンタリティーが素晴らしい」という指揮官の言葉は、まさしくそのとおりだろう。例えばセレッソ大阪に負け、中2日で迎えた大宮アルディージャ戦はすべての選手が高いモチベーションで臨み、あらゆる局面で先手を奪った。戦術や戦略以前に、試合にかける意気込みで勝っていた。そんな勝利だった。

一方で連敗したときにチームがどのような方向に進んでいくかは誰にもわからない。負け方にもよるだろうが、連敗は連敗だ。実力や不運に関係なく、2試合連続で黒星を喫したという事実がチームに深刻なダメージを与える可能性も否定できない。「崩れるのは簡単」(栗原勇蔵)なのだから。

対戦相手も大きく関係してくるだろう。勝ち点1差で3位につける浦和レッズにはアウェイで6年連続勝利を挙げているのに、ホームでは3年連続敗れるという相性の悪さを見せている。埼玉スタジアムではできることが、日産スタジアムになるとできない。そういった試合が多く、ホームで戦った際は主導権を握れない試合ばかりで、負けるのも不思議ではない展開が多い。

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3-4-2-1浦和 浦和の戦い方がホームとアウェイで変わるわけではない。表記こそ[3-4-2-1]だが、攻撃は[4-1-5]のように前線に多くの選手が張り出し、逆に守備時は[5-4-1]のような陣形でまず人数を割いて守る。エンターテインメント性の高いサッカーだとはまったく思わないが、ペトロヴィッチ監督就任2年目にして一定の完成度を維持できのは、やはり浦和に所属する選手たちの個人能力の高さあってのことだろう。いくらサンフレッチェ広島との対戦経験、あるいは広島出身の選手が複数いるにしても、チームとしてピッチで表現するのはまったく別物だ。その点に関してはリスペクトしたい。

マリノスが開幕6連勝をはじめ、今シーズンは常に上位に位置しているように、浦和も安定感抜群の戦いで上位をキープしている。マリノスよりもけが人が多く、ところどころ先発の入れ替えがありつつも上位を維持できるのは、選手層の厚さと戦術浸透度が高いからにほかならない。当たり前だが一筋縄ではいかない相手だろう。

その相手とどう戦うか。マリノスの布陣は前節・鹿島アントラーズ戦から変わらない。右でん部付近の肉離れで離脱している富澤清太郎は試合前日の火曜日にようやくピッチでのランニングを開始した。これでは到底、浦和戦には間に合わない。週末の大宮アルディージャ戦に出場できる可能性も低いだろう。

結果、引き続き小椋祥平が中町公祐とともに中盤の底を形成する。鹿島戦での小椋は実に小椋らしいパフォーマンスを見せた。先制点の場面は高い位置で小笠原満男をつぶし、ゴールの大部分を彼が演出した。しかし、チーム全体の運動量が落ちた後半は奪いどころが定まらず、攻撃でも強気な縦パスがボールロストになる裏目。常に状況や展開を頭の中で考えながらプレーしている富澤とは趣が異なるプレーだった。

とはいえ、小椋から小椋らしさを奪ったら何も残らない。小椋は富澤にはなれないし、富澤も小椋にはなれない。問題は小椋の特性をいかにチームに落とし込み、その上で機能性を保つか。重要になってくるのは相棒の中町、そしてトップ下の位置からスタートしてダブルボランチとともにトライアングルを形成する中村俊輔とのバランスである。

鹿島戦の前半、中町は普段以上に相方を意識したポジショニングを取っていた。小椋が奪いに出た場面の多くはディフェンスラインの前に残り、ボールサイドに近ければ積極的に奪って小椋にカバーを任せる。相互理解は悪くなかった。サッカーIQの高い中町は「自分は誰とでも合わせられると思う。この前の試合で逆転負けしたからオグ(小椋)とのコンビは合わない、と思われたくない」と試合にむけた意気込みを語った。その負けん気の強さも期待を抱かせる理由の一つだ。

と同時に中村と小椋がいかに調和できるか。中町以上に経験豊富でサッカーを知っている中村は、あまりにも感性と動物的な動きを重視する小椋とのバランスについて違和感を覚えているのかもしれない。それこそが富澤不在の最大の問題点であり、裏返すと今シーズンのマリノスの好調はやはり中盤のトライアングルあってこそだった。

今シーズン、小椋がリーグ戦で2試合連続先発するのは今回が初めてだ。「ゲームの反省を次で生かそうと思っても、次の試合に出られない状況だった。だから今回は鹿島戦の反省を踏まえた上でプレーしたい」(小椋)。具体的に言えば、それは中村との関係性に集約される。いかに小椋が気持ち良くプレーし、中村をのびのびプレーさせられるか。マリノス浮沈の鍵を握っているのは背番号6とのその周辺に違いない。

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