「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

目標に手をかける真夏の夜の快勝劇 [J23節・浦和戦レビュー] (藤井雅彦) -2,000文字-

非の打ち所のないパーフェクトゲームだった。今シーズンここまで何度か褒めちぎる原稿を書いてきたが、浦和レッズ戦でのパフォーマンスこそがその評価にふさわしい。間違いなく「今シーズンのベストゲームの一つ」(小林祐三)だ。

4-2-3-1_2013小椋 特に守備が素晴らしかった。前線からのプレスばかりフォーカスされがちだが、樋口靖洋監督が常々言っているように肝要なのは「どの位置でコンパクトにするか」である。前線からボールを追いかけた場面では、呼応するように最終ラインも押し上げる。ロングボールを嫌う戦術の浦和が相手の場合、バックパスに詰めていければ自然とボール奪取のチャンスとなる。同時に相手ゴールが近くなり、絶好のチャンスとなる。

ゴールとして結実したのが先制点の場面だ。左サイドで中村俊輔が途中交代の坪井慶介にプレッシャーを与え、わずかながらボールに触れてパスの軌道が変わった。ボールを受けた那須大亮は自陣ゴール前にもかかわらず、あろうことかドリブルキープを選択し、マリノスの狩猟者・小椋祥平にとって格好の獲物となる。

「簡単にボールを蹴られたら無理だったけど、相手が切り返していたのでなんとかしてシュンさん(中村)の前にこぼすことができてよかった」

 粘り強いディフェンスで那須ともつれ合いながらボールを奪い、中村へとつなげる。ウルトラレフティーにとってゴール目前からのフィニッシュを決めるのはとてもイージーなことだった。

その2分後にはマルキーニョスが超絶キープから右足でネットを射抜く。難しいシュートをいとも簡単に決めてしまうフィニッシャーも、もちろんこの日の勝利の立役者の一人だ。

前半途中の段階で2-0とリードしたこともあるが、マリノスはリスクを冒して出て行く必要がなくなった。チャンスと見るや小椋や中町公祐が最前線までボールを追いかけても、浦和の遅攻の際には冷静にバイタルエリアで待ち構えた。中澤佑二はダブルボランチの奮闘をたたえた。

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「鹿島戦は自分と(栗原)勇蔵の前にボランチがいなかったけど、その話をしたらオグ(小椋)とマチ(中町)がしっかりやってくれた。オグもマチも前に出てボールを取りたいタイプだけど、二人は気をつかってプレーしてくれた」

3-4-2-1浦和 と同時に、マリノスの最終ライン4人は浦和の[4-1-5]の『5』に対して数的不利で守ることを選択している。分かりやすく表現すると、相手の5枚がほぼ均等に横並びになり、その間に4バックのそれぞれが入るようなイメージだ。すると右サイドにボールがあるときは左サイドのワイドが、逆に左サイドにボールがある場合は右サイドのワイドが余る。それを覚悟の上で、マリノスの両サイドMFはあえて下がらなかった。下がらないことで相手のストッパーがボールを持ち上がるコースを消し、中盤での優位性を保った。

後半に入り、中村の右足シュートが決まって3-0。その後は浦和に2回ほど惜しいシュートを許したが、全体としてはほぼパーフェクトに封じ込めた。マリノスは最後の瞬間まで4バックの陣形を崩さず、中盤の選手が最終ラインに吸収されなかった。守勢に回るのではなく、能動的な守備を最後まで完遂できた。

前節・鹿島アントラーズ戦で今シーズン初めて逆転負けを喫し、連敗の危機に瀕していた。しかも相手は同じく上位の浦和だった。負ければ順位が入れ替わる可能性もあった。そんな勝負どころで発揮したパフォーマンスは秀逸だった。試合前から樋口監督は連敗しない理由について「コンディションとリバウンドメンタリティー」を強調していたが、その両方が好結果を生んだ理由である。

指揮官が何度も口にしているように、まだ10試合以上残している段階では順位よりも勝ち点や勝ち点差のほうが重要かもしれない。その観点で言うと、2位のサンフレッチェ広島には勝ち点3差で、3位の浦和には勝ち点4差とした。それよりも4位のセレッソ大阪と5位の鹿島は勝ち点で並んでいるが、マリノスとの差は『9』も開きがある。

優勝争いの行方はまだまだ分からない。いま1位だからといってタイトルを獲れると思ったら大間違いだ。しかし、チームの最低目標である『ACL出場権獲得』はかなり現実味を帯びてきた。そう思わせる真夏の夜の快勝劇であった。

 

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