「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

負けよりも痛い累積警告[J24節・大宮戦レビュー] (藤井雅彦)-2,047文字-

サッカーは対戦相手があって初めて成立するスポーツだ。だから、相手のパフォーマンスクオリティーを無視して試合を語ることなどできない。もちろんマリノスあってこその当サイトと原稿ではあるが、まずは大宮アルディージャに賛辞を送らなければなるまい。

4-1-4-1大宮 マリノス戦における大宮は、端的に言えば高い次元でファイトしていた。戦術やシステム論よりも先に、ピッチに立った11人が各エリアでマリノスの選手を少しずつ上回った。8連敗という結果にもう後がなかったのだろう。その間には監督交代という劇薬も投与したが、すぐに結果が出なかった。土俵際ぎりぎりいっぱいの状況だったのは想像に難くない。

システム変更がメンタルを後押しした。本来のスタイルである[4-4-2]から[4-1-4-1]へ。CBの高橋祥平を中盤に押し上げ、今夏に加入したオーストラリア人CBニールを先発起用する。小倉勉監督の采配が見事に的中した。高橋は厳しいチェックで中村俊輔を封じ、ニールは安定した守りと素晴らしいフィードでゴールの起点となった。

こうして日産スタジアムで開催された第16節から始まった連敗は止まった。連敗中の戦いぶりを詳しく知ってるわけではないが、この日のような集中力の高いパフォーマンスを発揮していれば、少なくとも8連敗という結果はなかっただろう。しかし、その日がマリノス戦に当たるのだから、不運としか言いようがない。

とはいえ運だけで片付けるべき敗戦でもない。大宮が高いパフォーマンスを発揮した背景には、前述したシステム変更に象徴されるようにマリノス対策をしっかり講じていたからにほかならない。「大宮は大宮のサッカーをするというよりも僕たちのサッカーにハメてきた。それにハマってしまった」と小椋祥平はうつむく。例えば中村がボールを持つと高橋を筆頭に複数の選手で囲い込み、ファウルぎりぎりのチャージを仕掛ける。マリノスボールの際は無闇にボールにアタックするのではなく、入ってきたボールに厳しく対応する。鋭いカウンターで先制してからは、さらにその流れが顕著となった。

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もし不運があったとすれば、それは主審があまりファウルを取らない性質にあったことか。序盤こそ何度かファウルをもらい、セットプレーからのチャンスもあった。特に左サイドからのFKは可能性を感じさせる場面が多く、実際に11分には中村のボールから中町公祐がバー直撃のヘディングを放っている。

4-2-3-1_2013小椋 このようなゲームでは、苦しい局面を打開するセットプレーの価値が増す。中町のヘディングシュートが決まっていれば大宮はさらに負のスパイラルに陥っていた可能性が高い。中町に責任があるのではなく、チーム全体としてセットプレーを生かしきれなかった。それは結果とは関係なく、ここ数試合続いている課題でもある。警戒されていてもなお効力を発揮するのがストロングポイントであり、富澤清太郎不在の影響があると言わざるをえない。

とはいえ、この敗北を過度に気にする必要はないだろう。単純に大宮のパフォーマンスが優れていただけの話。それに対してマリノスが良さを出せる日ではなかった。個々を切り取っても明らかにパフォーマンスが低調だった選手が何人かいた。しかも、それが期待値の高い選手だったから、試合結果にも大きな影響を及ぼす。齋藤学や栗原勇蔵は壁を乗り越えなければいけない。

もしかしたら、負けよりも痛い事実がある。累積警告だ。この試合で警告を受けたのは齋藤、栗原、そして小林祐三の3選手。齋藤と栗原はこれで累積3枚となり、いわゆる“リーチ”の状態となった。小林に至っては通算4枚目で次節が出場停止の対象となる。やむをえない類ならともかく、小林の場合は異議による不必要な警告だったから非常に残念だ。ドゥトラとマルキーニョスは試合前から累積3枚の状態で出場を続けており、今後は毎試合のように主力の誰かを欠く状況も考えられる。

この一戦における損失は勝ち点3だけにとどまらない。次節以降の戦いに少なからず影響も与えるだろう。単純に小林を欠くのだから、誰が右SBを務めるのか。天野貴史は右太もも裏肉離れで離脱しており、実績の少ない奈良輪雄太しかいない。小林の好調ぶりや貢献度からすると、戦力ダウンは否めない。

目標達成と頂点への道はなかなかに険しい。それを痛感させられる8月末日の出来事だった。

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