「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

左サイドの比嘉が躍動感をもたらす [天皇杯2回戦・ヴァンラーレ八戸戦プレビュー] (藤井雅彦) -2,150文字-

いつも以上に勝利が最優先されるゲームとなる。リーグ戦で大宮アルディージャに0-1、ナビスコカップで柏レイソルに0-4と、いずれも完封負けを喫した。公式戦2連敗となり、雲行きは明らかに怪しい。異なる大会とはいえ天皇杯でも敗れて3連敗となれば、今シーズンの行方を左右することにもなりかねない。相手はカテゴリーが3つ下に相当するヴァンラーレ八戸だとしても、勝たなければならない。名古屋グランパスの二の舞になるわけにはいかないのだ。

「目標は勝ち上がること」

 樋口靖洋監督の言葉は至ってシンプルである。そのためリーグ戦と変わらないベストメンバーで臨む可能性も考えられたが、どうやらこの一戦に向けてメンバーを大幅に変更するようだ。天皇杯2回戦後に中2日でセレッソ大阪との一戦が控えていることが強く影響している。最近のゲームでは個々のパフォーマンスが明らかに低下しており、ベテラン勢は休ませる頃合いだろう。そこで「この2試合はチーム全体で戦うという考え方で天皇杯に臨む」(樋口監督)。結果として、普段のリーグ戦であまりチャンスに恵まれない選手たちを見られそうである。

 守護神としてゴールマウスを守るのは六反勇治だ。今シーズンは貴重な控えGKとして出場した際には安定感あるパフォーマンスを見せているだけに不安は皆無だ。突発的な出番にも動じないマイペースなパーソナリティーは大きな武器で、また「マリノスで優勝したい」と胸を張って言える姿勢も素晴らしい。控えには病気と負傷した飯倉大樹が久しぶりに入る可能性が高い。

最終ラインに関しては主力と控えが混同する。右SB小林祐三は週末のセレッソ大阪戦が累積警告で出場停止となるため、ここに全力投球だ。栗原勇蔵は好不調の波が大きく、それを払拭するような“プライド”を見せてほしい。中澤佑二のポジションで出場するファビオは六反同様に不安は無用だろう。身体能力の高さはここに入っても随一の存在である。そして左SBには奈良輪雄太が入る。左右の違いこそあれ、週末のリーグ戦では右SBで先発する可能性が高い。したがって、それなりのパフォーマンスを見せてくれないと困る。

ダブルボランチでは復帰した富澤清太郎と熊谷アンドリューがコンビを組む。前者は数試合欠場したこともあり気合い十分。「単純に楽しみ。今回はとにかく勝つこと」とシンプルな言葉に力を込めた。後者は体調不良をきっかけに直近の柏戦ではベンチメンバーから漏れていた。チャンスをフイにしたのは自分自身なら、再びチャンスをつかむのも自分自身である。

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2列目には右からタフネス・兵藤慎剛、柏戦の後半から出場した攻撃を活性化した佐藤優平、そして比嘉祐介の3人が並ぶ。注目はなんといっても左サイドに陣取る比嘉である。5月末からの中断期間を機に本職のSBではなく一列前のポジションで起用されるケースが多くなった。当初はメンバー編成上の穴埋めの意味合いが強かったが、彼は持ち前の明るさを武器に意欲的に取り組んだ。

樋口監督の比嘉評は興味深い。

「彼がチームで一番ランニングする選手であることは評価しないといけない。足下でボールを受けたがる選手が多い中で、彼はスペースにどんどん出て行ける。ボールを受ける、受けないに関係なく、彼が走って生まれるスペースがある。それに彼自身は得点の感覚も持っている。期待したい選手のうちの一人であることは間違いない」

細かなことは気にせず、チームに躍動感をもたらすことが彼の使命となる。

最後になったが1トップに入るのは藤田祥史だ。37歳のマルキーニョスが抜群の得点感覚を維持しているためリーグ戦での出場機会はどうしても限られてしまう。途中出場した大宮戦では小さなミスも散見され、絶好機をマルキーニョスと奪い合うような場面もあった。チームがパワープレーに動いた際は役割が明確ではなく、居場所を失った感もある。だから何よりもゴールがほしい。リーグ戦終盤に向けてストライカーの存在意義を見せなければならない。

レギュラー格でありながら、負傷明けということでこの試合に先発出場する富澤はあえて口にした。
「普段から試合に出ている選手とベンチやベンチ外の選手では正直言って差がある。それは個人の問題というよりも集中力やスタイルへの完成度の部分。だから自分は微調整しながら、若い選手の推進力を引き出したい」

レギュラー組と比較するのはさまざまな意味で難しく、そもそもこのゲームで比較する必要はない。試合に出た面々がフレッシュな動きでチームに貢献し、結果として勝利を手にすればいい。細かな戦術面やコンセプトなどについて多くを求めるべきではない。そういった意味で、アグレッシブな姿勢を貫く比嘉は天皇杯2回戦に臨むマリノスの象徴的存在かもしれない。期待とともに、見守りたい。

 

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