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「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

「骨がくっつくのを待つしかない。チームも好調なので、波に自分も乗っていきたい」とパクは誰より遅くまでグラウンドに残って汗を流している [パク・イルギュインタビュー(後編)]

 

[パク・イルギュインタビュー(後編)

前編よりつづく

パク・イルギュが99日の名古屋グランパス戦で負傷してしまった。全力でゴールを死守しようとした結果、味方DFと接触して鼻骨を骨折。ただし、その試合は最後までプレーできたように軽傷で済んだのが幸いで、現在はフェイスガードを着用してトレーニングに励んでいる。

 

 

チームは3バックに変更してから調子を上げ、先日は今季初となるリーグ戦4連勝を達成。連勝中は梶川裕嗣にポジションを譲ったが、パクは次のチャンスに向けて静かに牙を研いでいる。

復帰間近となった今、何を思い、どのように過ごしているのか。そして転機となった“あの日の出来事”に迫る。

 

 

 

パク・イルギュは話すことが好きな選手だ。もともとの明るい性格に加えて、どんな場面でも質問者の意図を汲んで理路整然と解説してくれる。素人でも分かりやすいように噛み砕き、丁寧に言葉を紡いでいく。「どんな時でも質問に対して素直に伝えたい」という思いが根底にある。

これだけメディアの側に寄り添ってくれる選手はなかなかいない。取材歴の浅い人間にとってはチームや個人の現況を正確に把握するための突破口のような選手だ。

 

©Y.F.M

 

パクがメディア露出の重要性、大切さを特に考えるようになったのは、マリノスで試合に出場し始めた昨季途中からだという。

「マリノスは歴史と伝統を持つビッグクラブなので発信力にも優れています。試合前後に僕が発した言葉が記事になると、すぐに知り合いから連絡のメッセージが届きます。僕は思い浮かんだ言葉を声に出しているだけなので、それを上手にまとめてくれるメディアの方々に感謝しているくらいです(笑)。メディアの方々を介してファン・サポーターに思いを伝えることはとても大切だと思っています」

 わずか2年前には、当時J3FC琉球(現在はJ2)でプレーしていた。J1のようにスタジアムに観客が何万人も入るような環境ではない。メディア露出も地元紙が熱心に取り上げるくらいで、チームメイトと自身の名前が全国紙に載ることはほとんどない。遠く離れた場所に住む友人からすれば、自らが情報を探さなければ知ることのできない状況だった。

 

 

マリノスに加入し、J1のクラブ規模や影響力の大きさを感じた。そしてGKの声をもっと多くの人に届けたいと思うようになった。

GKの記事はどうしても少なくなってしまう。得点した選手が取り上げられやすいのは当然だと思いますが、子どもたちの中にはGKとしてプロを目指している選手も必ずいます。プロのGKがどんな思考でプレーしているのか、気になっている少年少女はたくさんいるはず。僕個人の思いとして、若い世代に考えをしっかり伝えて、日本サッカーのレベルの向上に貢献したい。だから僕はたくさん話したいし、本音を伝えていきたい」

 いつも背筋をピンと張り、しっかりと質問者の目を見て受け答えする。ユーモアも交えながら、気がつくと2030分経過することも珍しくない。

 

©Y.F.M

 

唯一、例外となった日がある。

その日、パクは試合後のミックスゾーンを無言で通過した。記者からの質問を遮るように「今日はすみません」と言い残し、足を止めることなく去っていった。どことなく足早に、駆け抜けるように。

苦々しい記憶を静かにたどっていく。

 

 

PREMIUMコースとは

 

「開幕戦のガンバ戦は、いろいろな意味で難しかったです。立ち上がりのミスから失点して試合を壊してしまい、それからは試合中も試合後もずっと自分に対して怒っていました。広報担当の方に『今日はミックスゾーンをパスしたい』と言ったのは人生で初めてです。実際はミックスゾーンを通りましたが『すみません』と小さな声で言って、逃げてしまった。プロである以上、称賛だけでなく批判も受け入れなければいけません。なぜああいったミスが起きてしまったのか、それを自分なりに話さないといけなかったと思います。でも、試合直後は自分の頭と気持ちを整理できていなくて、話をすることができませんでした。二度としたくない経験ですが、もし同じようなプレーがあったとしても今度はしっかり話さないといけない」

 試合序盤の前半6分、バックパスを受けたトラップがわずかに大きくなり、自陣ゴール前でボールを奪われて失点。プレッシャーが来ていることは頭に入っていた。味方の位置関係も把握できていたはず。そのうえでショートパスをつなぐことも、ロングボールを蹴ることもできた。

 

 

複数の選択肢が反対に判断を難しくしたのかもしれない。

「あのガンバ戦の映像は、いまだに見ることができません。トラウマになっています。もし見るとしたら、最初の6分を飛ばして見ると思います。何が起きたのか今でも分かっていないし、あのプレー選択になった理由が自分でも分かりません。おそらく準備段階から悪かったんでしょう。自分自身が青かった」

 新型コロナウイル感染拡大によるリーグ戦中断、さらには緊急事態宣言発令による自粛と活動停止。全体練習再開後に襲ったケガというアクシデント。すべてが試練として立ちはだかり、開幕戦でのリベンジの機会を奪っていった。

「ケガをしたのは自分の責任です。プレーしているのは自分だから、それを防ぐことができるのも自分だけ。いろいろなことが重なって意気込みすぎていたのかもしれない。でも苦しい経験をしたことで心身ともに強くなることができました。人生の中では必要な経験だったと思っています。2月下旬にトンネルに迷い込んで、抜け出すまでに半年以上かかった。仙台戦でようやく克服できたんです。本音を言うと、それまでは練習でもパスをもらうことが怖かった」

 プロサッカー選手として、ミスと向き合わなければいけない瞬間がある。その経験を糧にできた時、選手はひと回り大きくなるのだろう。

 

 

胸の内に秘めていた「怖かった」という思いをようやく打ち明け、パクの表情は晴れていった。あの日、言葉にして発信できなかった悔恨の念を消化し、先へ進んだ瞬間だった。

チームは8月中旬から中23日での連戦を戦っている。途中、連敗で苦しんだ時期もあったが、現在はシステム変更を経て再び上り調子に。名古屋戦で鼻を負傷したパクはすでに練習復帰し、試合出場を目指している。

 

 

連戦開始前、こんなことを言っていた。

「厳しい連戦だからこそチーム力を求められるし、いろいろなことが起きるはずです。もしかしたら昨年と同じように連敗してしまう時期があるかもしれない。でも、そんな時こそメンタルが強く、チームを鼓舞できる選手が必要になる。鼓舞したり発破をかけたり、苦しい時に力を出せる選手になって、マリノスを本当の意味でプロフェッショナルなチームにしていきたい。自分はもう下を向かないし、本当の意味で自信を持って戦っていけるはず。崩れるのではなく、踏ん張って、また登っていく。自分にとって苦しい時間はもう終わりました。これからはピッチの上で活躍して、チームの順位を上げて、それでメディア露出の機会を増やしてマリノスがもっと注目されるように頑張っていきたい」

 慣れないフェイスガードとの戦いにも「骨がくっつくのを待つしかないし、視野に慣れれば問題ありません。それにチームも好調なので、その波に自分も乗っていきたい」と前向きな姿勢を崩さない。相変わらず誰よりも遅くまでグラウンドに残って汗を流し、自身の鍛錬に余念がない。

パク・イルギュが歩む道はいつも平坦ではない。でも、彼は苦難が訪れるたびに強くなる。強くなった背番号1が、マリノスの最後尾にいる。

 

 

(おわり)

 

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