「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

采配は的中していた。だからこそ・・・・ 【J28節甲府戦レビュー】(藤井雅彦) -2,079文字-

スコアレスに終わった前半について樋口靖洋監督は「想定内だった」と振り返る。ヴァンフォーレ甲府が形成するブロックディフェンスは堅く、ボールを奪ってからのカウンターアタックも徹底されていた。試合後、榎本哲也が「甲府がホームで広島や鹿島に勝っている理由がよくわかった」と力を認めたのは、おそらく社交辞令ではない。

3-4-2-1甲府 システムこそ[3-4-2-1]の表記だが、守備時はほぼ5バックとなり、前線に1トップのパトリック一人を残して9人でブロックを作る。特筆すべきは、引いてゴール前を固めるだけでなく、相手の縦パスに対するインターセプトを常に狙っていること。ボランチの中町公祐は「試合をやっている中の状況で感じたのは、相手がすごく引いて、でも抜かりなくパスコースを狙ってくるということ」と話す。迂闊に縦パスを入れようものなら、それは甲府の鋭いカウンターアタックの引き金になりかねなかった。

そこでマリノスは、あえてリスクを背負うことをしなかった。横にボールをつなぐことに終始し、縦パスを極力減らす。すると当然、相手のブロックは崩れないが、それと引き換えにカウンターを食らうリスクを軽減させることにも成功した。序盤に前がかりになった裏のスペースをパトリックに突かれたのも影響していたかもしれない。しかもその時間帯に複数の決定機を献上しているため、甲府が繰り出すカウンターの威力を身を持って知った。だからリスクを冒すことが得策ではなかった。結果的に前半は0-0で終わることも、やむなしだった。

とはいえマリノスは当然、勝ち点3を狙って試合に臨んでいる。前半はスコアレスでOKでも後半は違う。前線へのアバウトボールが増えたことで甲府を間延びさせ、さらに69分の選手交代で一気に流れを引き寄せる。出来が良くなかった中町に代わって藤田祥史を投入し、マルキーニョスと2トップを組ませる。前線にターゲットが増えたことで起点を作り、甲府のラインをさらに下げた。その結果、2列目の選手が生きるスペースも少しずつ生まれ、ボランチに下がった中村俊輔へのマークも緩くなった。

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4-2-3-1_20132 采配は的中していた。だからこそフィニッシュを決めきりたかった。77分に相手陣内でボールを奪った齋藤学からのグラウンダークロスを藤田が狙うも、シュートをミートできず枠外へ。79分にはマルキーニョスのシュートのこぼれ球を兵藤慎剛が狙うも、これも枠上へ外してしまう。極めつけは後半ロスタイムのシーン。カウンターから兵藤→藤田とつなぎ、最高のお膳立てを得たマルキーニョスがシュートを放つも、相手GKの好守に阻まれる。ゴールを期待されて投入された藤田は「結果を出さなければ意味がない」とうなだれるばかりだった。

序盤の時間帯を除き、守備はほぼ磐石だった。際立ったのは中澤佑二と栗原勇蔵の安定した守備対応だ。身体能力を生かして攻め込んでくるパトリックに対して、チャレンジ&カバーを徹底。中澤がチャレンジし、栗原がカバーする。その関係を保ち、後半は甲府をシュート0本に押さえ込んでいる。もちろん序盤に榎本が見せたいくつかのビッグセーブも無視できない。「あれで流れに乗れた」と語る好守がなければ、試合展開はまったく違うものになっていただろう。

1点が必要だった。いや、1点で十分だった。しかし、その1点が遠い。勝ち点1と勝ち点3の差は大きく、結果として首位の座をサンフレッチェ広島に譲ってしまった。それだけでなく浦和レッズや鹿島アントラーズとの差も縮まり、来季のACL出場権を獲得できる3位以内すら安泰とはいえない勝ち点差となった。広島とは勝ち点で並び得失点差で上位を譲ったとはいえ、気分が良いものではない。

それでも中村はときどき笑みをこぼして言う。「歩幅は小さいけど、一歩一歩進んでいるからネガティブにとらえる必要はない。そんなに独走するようなチームではない」と。冷静に、客観的に、自分たちを見つめている。裏返せば、油断や慢心があるとすぐに順位を落としてしまうということでもある。

15位のチームに勝ち点2を取りこぼしたという見方がある一方で、甲府のクオリティーは決して低くない。それに付け加えてマリノスのバイオリズムも最高潮のそれではない。残り6試合ではもう一段階ギアアップしなければ、勲章を掴み取ることは難しいかもしれない。スタメンやサブといった立ち位置に関係なく、奮起が求められる最終局面を迎えている。

 

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