「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

このチームが本当に誇らしい [ナビスコカップ準決2nd・柏戦レビュー] (藤井雅彦) -2,261文字-

個々のパフォーマンスは今シーズンの水準よりも高く、チームとしての一体感や共通理解もあった。「点を取らなければいけない状況だった」(中澤佑二)ことを全員が理解し、大量得点という課せられたハードルを越えるために能動的にプレーした。

4-2-3-1_佐藤左小椋 柏レイソルの状態が想像以上に悪かったことも手伝い、ほぼ完璧なゲームを演じたと言っていい。序盤こそ天候の良い休日にありがちな牧歌的な雰囲気が漂っていた気もするが、セットプレーの流れからマルキーニョスがゴールを決めると一変。前半終了間際には佐藤優平というラッキーボーイも誕生した。終始、強気のプレーを続けた栗原勇蔵は「みんなあきらめないでサポーターも一緒になって勢いを作ることができた」と前向きに振り返っている。

この日の頑張りを悲観視する必要はまったくないが、カップ戦の勝ち上がりor敗退という観点では「終わってみれば前回の4-0がすべてだった」(兵藤慎剛)。アウェイの第1戦で喫した0-4というスコアがあまりにも重すぎた。あの試合で少しでも反攻姿勢を実らせていれば結果は違ったのかもしれないが、すべては後の祭りだ。結果論で原稿の文字数を多くするつもりはない。

それよりも前向きな要素を再確認するほうが、残りのシーズンに生きるはず。まず前述したようにチームとしてのまとまりが素晴らしかったことを強調したい。瀬戸際に立たされているという状況がそうさせた要因だが、結果として一枚岩となり、試合を戦えた。チームは生き物で、結果が出ない試合が続くと少しずつバランスを欠いていく。どこからか不満が噴出することもあるだろう。だからチーム全体で前向きに戦い、勝ったことには意味がある。

個々に目を移してもポジティブな材料がとても多い試合だった。個人的にはマルキーニョスの復調を最初に挙げたい。多分にメンタルも影響しているのだろうが、この日のマルキーニョスは前線でのフィジカルを生かしたポストプレーでボールを収める、もしくはファウルを獲得して相手DFを悩ませた。ゴールは相手GKのミスと断言してもいいが、それ以外のところでの貢献度の高さを強調したい。残念だったのは、復調気味の助っ人ストライカーにシュートシーンが訪れなかったこと。前後半を通して決定機を作り出したが、そのうちの少しにでもマルキーニョスが登場していればチームトータルでのゴール数は違っていたかもしれない。

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4-1-4-1柏 次に佐藤の名前を挙げないわけにはいかない。その大卒ルーキーの動きを中村俊輔は「受けるというよりも抜ける動きができる」と独特の表現で解説した。ボールを引き出そうとする意欲的な姿勢は誰よりも際立っており、ゴールシーンも兵藤からのパスを自ら要求したからこそのゲットだった。ただしフィジカル面の課題が解消されたわけではなく、今後も2列目で出場機会を狙うのであれば最低限のフィジカルを身につけなければいけない。背負った状態でボールロストしない身体的な強さと技術、あるいは後半途中になってプレーが淡白になったのは持久力の問題もあるだろう。とはいえ、大事な局面でこれだけの仕事をやってのけたのだから、チームにとっては明るい材料と言える。

そして守備陣を褒めないわけにはいかない。特に両CBの出来は秀逸だった。前半は工藤壮人を、後半は田中順也、あるいは途中出場のクレオにほとんど何もさせなかった。普段よりも圧倒的にリスクが高い状況でありながら、それを絶対的な能力とここ一番での集中力、そして強い意思でカバーする。何か起きるかもしれないという期待感を抱かせてくれたのは、ほかでもない彼らの頑張りがあったからこそ。1失点した瞬間にスタジアムはため息に包まれ、その瞬間にすべてが終わっていた。そうさせなかっただけでも守備陣の奮闘は褒められて然るべきである。

さて、最後に今シーズンのナビスコカップを簡単に総括したい。予選リーグを圧倒的な強さで勝ち上がり、準々決勝では鹿島アントラーズに2戦2勝。残念ながら準決勝で敗退したが、この柏戦でもしっかりと意地を見せてくれた。予選リーグの序盤はファビオや藤田が出場機会を増やし、準々決勝・鹿島戦では齋藤学がスターダムへの階段を駆け上がるファインゴールを決めた。そして準決勝・柏戦では佐藤が周囲に認められるきっかけをつかんだ。

現在の日本サッカー界においてプライオリティーが高い大会ではないかもしれない。とはいえリーグ戦とカップ戦で完全にターンオーバーするほど潤沢に選手を抱えるクラブなどない。樋口靖洋監督はすべてのタイトルを本気で狙い、そのために最善を尽くした。これまでも何度か書いてきたように、今年のナビスコカップにおけるマリノスの戦いぶりはリーグ戦での好調を裏付けるのに十分な内容だったと思う。今後のリーグ戦の結果次第ではあるが、有意義な戦いを3月から8ヵ月間見せてくれたチームが本当に誇らしい。

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