「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

リーグ戦5試合連続無失点のクラブ新記録樹立、失点26は単独でリーグ最少失点チーム [J30節・大分戦レビュー] (藤井雅彦) -2,248文字-

リーグ終盤らしくなってきた。マリノスがすでに降格の決まっている最下位・大分トリニータを1-0で退けた今節、順位表の上位4チームはすべて勝ち点3を獲得した。残り5試合ともなれば、チームの立ち位置が良くも悪くも明確になる。優勝を狙うチーム、3位以内に与えられるACL出場権を目指すチーム、その下で無風状態を過ごすチーム、そして残留争いで尻に火がついているチームなどなど。

4-2-3-1_佐藤左 この中で最もモチベーションが高いのは、言うまでもなく優勝を争うチームだ。長いシーズンを戦い、チャンピオンの称号を得られるのは、わずか1チームのみ。逆にモチベーションを保ちにくいのが、中位でくすぶっているチームだろう。力関係は別にして、モチベーションは試合結果を大きく左右するファクターとなる。少し前までは注意まで団子状態だった順位表も、気がつけば上位陣が確実に勝ち点を積み上げ、中位から下のチームはなかなか勝ち点を伸ばせなくなる。終盤戦の様相としてはおそらく正しい。

今節、意外だったのは5位のセレッソ大阪がサガン鳥栖に敗れたこと。6位・FC東京や7位・川崎フロンターレの勝負弱さはシーズン開幕前から容易に想像できたが、手堅いサッカーで勝ち点を伸ばしてきたセレッソが敗れたのは驚きだった。とどめの2点目を決めたのがマリノスから期限付き移籍中の金井貢史というのも何かの縁だろうか。ともあれ、これで5位のセレッソとの勝ち点差は『9』に開き、優勝争いからほぼ脱落した。4位の鹿島アントラーズとの勝ち点差も『6』あり、残り4試合ならばセーフティーリードに思える。実質的には勝ち点2差の浦和レッズ、勝ち点3差のサンフレッチェ広島との三つ巴か。

さて、大分戦に話を戻そう。スコアこそ前述したとおり1-0の最少得点差となったが、力の差は歴然としていた。被シュートはわずか2本で、最初のシュートを許したのは77分のこと。それも入る可能性の低いミドルシュートで、もう1本は遠い位置からの直接FKだった。押し込まれる時間帯はほとんどなく、エリア内からのシュートも打たれていない。GK榎本哲也が「こういう展開は逆に疲れる。シュートが飛んでこないのでリズムをつかみにくい」と苦笑するのも無理はない。

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マリノスはGK、あるいは最終ラインが稼働することなく守備を終えていた。序盤こそ大分のフレッシュさに手をこまねいたが、それもわずかな時間だけ。前半途中からはマリノスがポゼッションしながら「どうやって点を取るかがポイント」(樋口靖洋監督)のゲームとなった。ボールを失っても中盤から前のプレッシングが機能し、すぐに奪い返す。とりわけ中町公祐と富澤清太郎のダブルボランチは出色の出来で、特に中町の狙いを定めたボール奪取が光った。前線がコースを限定し、中盤で奪う。ロングボールを蹴られた場面のみ最終ラインの仕事となったが、中澤佑二とファビオは単調なロングボールを楽々とはね返して再びマイボールにした。

4-1-4-1大分 このようなゲームでは1点が大きな意味を持つ。相手の手堅いブロックを崩すには前節・広島戦のゴールシーンのように、日本代表・齋藤学が間で受けてドリブル突破を図るのが最適である。大分戦でもそのような場面が見られ、主に左サイドから仕掛けてマークを引き付ける役割を担っていた。ただ、広島戦のようにフィニッシュまで持ち込むのは簡単ではなく、かといってドリブル後のコンビネーションもイマイチ。パス交換の相棒となる兵藤慎剛がベンチスタートだったことも影響し、齋藤に見せ場は訪れなかった。

そんな試合を決着させたのは中村俊輔の左足だった。前半終了間際の45分、ペナルティエリア右横でのボールキープでファウルを誘い、直接FKを獲得。そして「ここぞという場面で伝家の宝刀が抜かれた」(樋口監督)。角度のない地点からニアサイドを狙い、相手GKの逆を突く。29分にはゴール正面左寄りからFKを狙ったが、この場面は壁に阻まれた。角度的にはなかったが、相手選手の心理状態や警戒心を考えると、ゴールシーンのような位置のほうが決まる確率は高いのかもしれない。それでも中村は「最近はどの試合でもいい場所でのFKを決めきれていない。恥ずかしい」と首を横に振り、反省の弁ばかりを口にした。

追加点こそ取れなかったが、内容だけを切り取ると1-0の完勝と言っていい。失点する可能性は限りなくゼロで、押し込んだ状態から獲得したセットプレーで得点できたのも必然に近い。1位と18位の対戦だから大差がつくという理屈は存在せず、最少得点差でも「力の差を見せることができたと思う」と話す富澤の言葉は頼もしい。

これでリーグ戦5試合連続無失点のクラブ新記録を樹立し、失点26と単独でリーグ最少失点チームになった。順位はもちろん居心地の良い首位。9年ぶりのリーグ優勝に向けて、極めて順調に歩を進めている。

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