「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

トップ下は中町 : 俊輔不在を総合力で乗り切る。 [J31節・名古屋戦プレビュー] (藤井雅彦) -2,168文字-

今シーズンのマリノスにおける中村俊輔はすべての場面で合図となり、チームメイトにとっての指標となっていた。樋口靖洋監督は「守備のスイッチを入れてくれる選手」と表現し、攻撃以上に守備面での貢献度が高いことをよく口にしている。1トップのマルキーニョスの背後に位置するが、中村の感性ひとつでポジションは自在に変化する。ときにはマルキーニョスを追い越して相手にプレッシャーをかけることもある。一方でダブルボランチと同じラインまで引くケースも珍しくない。背番号25のポジショニングやプレーを見ながら後方の選手は戦い方を決めていく。

4-2-3-1_中町トップ下 小林祐三は「中村俊輔とそれを支えるダブルボランチが今年のチームの肝」と客観的に分析する。中村の動きに合わせていく筆頭が中町公祐と富澤清太郎であり、中村という存在の有無によってプレーの質が大きく変わるはず。一概にパフォーマンスが低下するとは言えないが、変化をきたすのは紛れもない事実。ここまで全30試合に先発出場し、リーグ戦に関しては欠場した試合がない。したがって中村不在の影響を想像することはできても、具体的な事象を交えて変化を説明するのは不可能だ。

もちろん攻撃面においても、中村は自由自在にチームを操っていた。個でタメを作れる稀有な存在で、今シーズンは不用意なボールロストがほとんどなかった。単純にコンディションが素晴らしく、他選手と一線を画するプレークオリティーだった。相手選手を引きつけ、ゲームを次の展開へと導く。決してボールを奪われないから周囲は思い切って押し上げることが可能で、さらに攻撃的なポジションを取れた。遅攻には欠かせない選手で、胆のう炎が病み上がりのため欠場する名古屋グランパス戦ではタメを作れず苦労するかもしれない。

一方で中村という存在がチームの攻撃を遅攻よりにしていたという事実も忘れてはいけない。スピードアップしてカウンターを仕掛けられる場面でも、しばしば中村はボールロストを嫌ってスローダウンさせることがあった。個に判断を委ねているからこそ、哲学や考え方が如実に表れる。その選手の不在によって「全体的に攻撃が早くなるのは間違いない」と富澤。3日に行われた湘南ベルマーレとの練習試合ではボールを奪ってからの早い攻めがフィニッシュ、そしてゴールへと結びついた。ただし毎回のようにフィニッシュに持ち込めない恐れがあり、逆にボールを失えばカウンターを食らうリスクが高まる。今度のゲームでは攻撃の緩急について、司令塔不在を全員の判断で埋めなければならない。一つの脳ではなく複数の脳で行う、これが思った以上に厄介な作業だ。

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そこでトップ下に入るであろう中町には、中村を忘れたプレーを期待したい。「同じプレーをするつもりはないし、できない。する必要もない」と言い切った目は輝いていた。元来、周囲からの期待を粋に感じるタイプで、自分自身に大きな期待をしているのだろう。もともとトップ下でプロ入りしたという事実はだいぶ昔のことだが、モチベーションによってプレーの質が大きく変わることは想像に難くない。うまくいかな時間帯もあるだろうが、持ち前の強気なメンタルとサッカー偏差値の高さで乗り切ってもらいたい。

4-3-3名古屋 中町のほかでは、スライド人事によって出番を得る小椋祥平に注目だ。今シーズンは中町、富澤の陰に隠れがちで、出番は両者のいずれかが出場停止、あるいは負傷の場合に限られた。今回はその3人の共演が実現するわけだが、小椋がペアを組む選手として中町よりも富澤が適しているのは間違いない。ボールを奪いに行きたいタイプの小椋は同タイプの中町よりも、後ろでバランスを見てくれる富澤との相性が良い。背後を気にした小椋に魅力はない。守備で、迷わず自分から仕掛けるプレーこそ、彼のアイデンティティなのだ。

それにしても、優勝に向けて一点の曇りもないかに思われたタイミングでの大黒柱の病気離脱である。累積警告はある程度防げるもので、さらに負傷よりも想定できないアクシデントが起きてしまった。しかしながら毎試合のようにトピックに事欠かない現在の状況は、まさに優勝争いへの試練の数々と言えるのではないか。ここまで、その一つひとつを順調にクリアしてきた。だから今回も過度な心配は不要だ。

勝つことで強くなってきたマリノスは、そんなにヤワなチームではない。中村不在という最大のピンチも、総合力で乗り切れるはず。樋口監督が「僕は正直楽しみ。終盤にきて違う色が出せると思う」と強気な姿勢を崩さないのも、いまのチームに対する自信の表れだろう。難所を乗り越え、優勝への一本道を独走したい。

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