「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

【無料記事】ある女子大生サポーターのダービー観 / 蒼井真理コラム

 

「ダービーじゃないって言う人もいるけど、私は絶対にダービーだと思います」

今回、「横浜ダービー」に向けてマリノスサポーターから「ダービーについて」、「横浜FCについて」のコメントを集めようと試みたが、「まあ普通に勝てるんじゃないんですか?」、 「そもそもダービーだと思っていません」という声が想像以上に多かった。

そんな中で広島戦の試合後、偶然声をかけた知り合いの女子大生マリノスサポーターから、とても興味深い話を聞くことができた。

同じ横浜の「面倒くさい」存在

今年から大学生になった彼女は、2007年の前回ダービー時はまだ中学2年生だった。

「ちょうどスタジアムに通い始めたころで、日産スタジアム開催の招待券をもらった試合だけ、母と妹と3人で行ってました。8.11(日産スタジアムで、8-1で勝利した試合)は行きましたけど、三ツ沢の試合(0-1で敗戦)は行ってません」

まだサッカー観戦は数試合目。当然、同じ街のクラブ同士のダービーだと意識することもなかった。

「たくさん点が入って楽しい、ゴール裏のグループの人たちの近くで『おっきい太鼓だねえ』とか妹と話して(笑)。それくらいですね。でもいっぱい新聞紙(紙ふぶき)が降ってきて、すごく盛り上がってたのは今でも覚えてます。その印象が強すぎて『サッカーの試合ってこんなにすごいんだ』って思ったけど、その後の試合で『あ、人が少ない時もあるんだ』って(笑)」

8.11以来、横浜FCとの対戦は行われていない。それが現在の「ダービー意識の低さ」につながっているのは間違いないが、では当時は中学生だった彼女がダービーを意識するようになった理由はどこにあるのだろう。

「高校1年の時にサポーター活動に参加するようになって、ゴール裏の人たちと仲良くなって、いろんな話をする中で『面倒くさい奴らなんだ』って刷り込まれた部分は大きいですね。その後ポスター活動を続ける中で『ああ、これは確かに面倒くさいな』と実感しました」

横浜FCを同じ街のクラブ、「面倒くさい」存在だと日常的に感じる機会が最も多いのは、ホームタウンで営業するクラブスタッフと、ポスター掲示などの活動をするサポーターではないだろうか。不本意ながら、両クラブのポスターが仲良く並んで貼られている店も少なくない。今までポスターを貼ってくれていた商店から、「贔屓にしてくれてるお客さんが横浜FCと付き合いがあって、悪いけどマリノスのポスターは貼れなくなったよ」と言われることもある。多くのポスター協力店がある商店街が、ある日突然、横浜FCのフラッグで埋め尽くされている光景に愕然とすることもある。

2008年8月には、横浜FCのサポーターがマリノスサポーターの貼ったポスターを剥がしていたことが発覚し、マリノスが横浜FCに厳重抗議。当該サポーターグループが謝罪する事件もあった。

「普段は対戦することもないし、何をやってるのかどんな選手がいるのかも知らないけど、同じ横浜に存在することは確かなので。川崎みたいに『境界線がどうだこうだ』じゃなく、もろに『面と面で重なってる』なかで、J1とJ2にいるわけだから」

勝ちたい、でなく「懲らしめたい」

横浜F・マリノスと横浜FC。1998年のマリノスとフリューゲルスの合併を経た両クラブの成り立ちには、簡単に語り切れない複雑な経緯がある。

「いろいろゴチャゴチャしてるし、いろんな念もこもってるから。その念も人それぞれで、大きさも違うし」

今回、5年ぶりの対戦で万が一にも敗れるようなことがあっても、またしばらく両クラブが対戦する機会はないかもしれない。あるいは、未来永劫に。

「(横浜FCに負け越した状態で)ずっとモゾモゾした感覚の中で暮らさなきゃいけないのはイヤだし、多分そうなると地元でポスター貼る時なんかに思い出してムカつくと思うんですよね」

しかし前回は53,916人を動員したカードも、平日開催の天皇杯3回戦ということで、マリノス側のゴール裏も広島戦の前日までの発券枚数は1,000枚程度でしかないとも聞く。

「水曜日だから来られない人がいるのも分かるんですけど、やっぱり多くの人に来てほしい。(マリノスが横浜FCに勝つところを)たくさんの人に見せつけたい。普通の天皇杯3回戦と同じ盛り上がりだと、もったいない気がする。せっかく今やるのに『え、行かないの?』みたいな」

前回の対戦時は中学生だった彼女にとって水曜は、それと意識して臨む初めてのダービーになる。

「そうですね。8.11からは長い時間が経過してるし、私としてはここで一発『懲らしめたいな』って。そんな感じですね」

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