「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

二兎を追い、二兎を得る – 藤本淳吾先発か [ゼロックス杯広島戦プレビュー] (藤井雅彦) -2,069文字-

少しばかり準備期間が足りなかった。始動前から樋口靖洋監督は「今年は開幕まで4週間と時間がない。僕の中では1週間短い」と言い続けてきた。それに大雪というアクシデントが加わり、予定変更を余儀なくされた。本来は富士ゼロックス・スーパーカップのちょうど1週間前に予定していた栃木SCとの練習試合で主力選手の多くを90分間プレーさせる予定だった。例年であれば、このタイミングで1試合のゲーム体力と感覚を思い出せば問題なかった。

4-2-3-1_ゼロックス それが荒天のため中止となり、選手は90分ゲームを経験しないままシーズン開幕を迎える。栗原勇蔵が「いきなり本番で90分間をやることになった」と苦笑いを浮かべたように、多くの選手は不安との戦いになる。ただ、これに関しては予定を立てた段階の落ち度ではない。あの大雪には誰も勝てない。関東学院大との練習試合を行えたのは奇跡のような出来事で、開幕に向けて最大限の努力と周囲のサポートがあった。

そのため試合は手探りな展開から始まる可能性が高い。対広島という性質は後述するとして、シーズン開幕戦は堅いスタートになりがちだ。今回の場合は体力面の不安だけでなく、いきなりのタイトルマッチという緊張感がそうさせるはずだ。オフに手術した左足首の状態を気にかけながらの先発出場となる齋藤学は「勝負どころを見極めてプレーする必要があるし、そういうことも必要になってくると思う」と展望を語る。それはマリノスに限ったことではなく、サンフレッチェ広島にも当てはまること。互いに慎重な序盤が予想される。

 

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そこに対広島というエッセンスが加わったとき、オープンな打ち合いは想像できない。守備時に[5-4-1]を形成して自陣に引く広島はボールを奪いに出てこない。分厚い守備網を後方に敷き、奪ってからの手数をかけない攻めで佐藤寿人や石原直樹を生かす。あるいは右サイドにいるミキッチの突破力にかける。予想されるのは、マリノスがボールを持ちつつも、なかなか崩しきれないといった展開だ。1月1日の天皇杯決勝戦とまったく同じで、ゴールネットを揺らす可能性が最も高いのはセットプレーだろう。次に齋藤学の独力、あるいは天皇杯決勝で右SB小林祐三が見せた勇気ある突破といった“個”か。いずれにせよ相手の目先を変えるようなアクションがなければゴールはなかなかこじ開けられない。

広島3-4-2-1 語弊を恐れずに言えば、退屈な試合になる可能性が高い。そんな中でも見どころが盛りだくさんあるのはシーズン開幕戦ならではだろう。右MFで先発起用される可能性が高い藤本淳吾のパフォーマンスは掛け値なしに楽しみだ。プレシーズンを見る限りではまだまだコンディションが上がりきっておらず、練習試合では消える時間帯も多い。ボールタッチ数が極端に少なく、スムーズに溶け込めているとは言い難い。目先の結果を優先するならば兵藤慎剛を起用すべきで、藤本がチームを進化させる期待と同時に、昨季まで誇っていた機能性を損なう要因になる可能性も否定できない。

それを覚悟の上で藤本を先発起用する樋口監督の立ち回りも興味深い。昨年末にインタビューを行った際、指揮官自らが「状況を変えなければいけない、点を取らなければいけない、というところでの采配に関して、僕は慎重なタイプなのかなと思います」と吐露している。そういった自覚があるのならば、ある程度の選手層を得た今季は違いを見せてもらいたい。藤本から兵藤への交代、あるいは1トップで先発起用が濃厚になっている端戸仁から矢島卓郎や伊藤翔へ早めにスイッチする場面が見たい。

もちろん交代が早ければそれで称賛されるわけではなく、状況に応じた采配が必要だ。勝利を得るために、交代しないという決断もあって然るべきだからである。ただ、このゼロックス杯に関してはテストの意味合いがあってもいい。その後にそれぞれ中3日で控えるACLとリーグ開幕戦。それらとゼロックス杯のプライオリティーを考えれば当然の考え方であろう。勝つための采配をしつつ、ある程度のチャレンジが許される局面なのだ。

もちろん今後に向けて弾みをつける意味で、勝利に勝る結果はない。「勝つのと負けるのでは気分が全然違う」(栗原)。テストしながら勝つ。久しぶりの公式戦で筆者自身の気持ちが高ぶっているのもあるが、ここは二兎を追って二兎を得てもらいたい。

 

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