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「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

三門雄大を起用したのは大きな驚きだった [ACL1節全北戦レビュー] (藤井雅彦) -2,306文字-

 

スポーツの世界にある『敗者の美学』は日本特有の文化らしい。メディアの多くは無名の勝者よりも有名な敗者を取り上げる。彼や彼女のヒストリーをドキュメンタリー形式で振り返るわけだが、勝っても負けても内容は大きく変わらない。事前に用意したものをどういった見出しで見せるかの違いだけ。準備に要する時間の都合もあるだろうが、そういった背景が敗者を美化させてしまう。

閉幕したばかりのソチ五輪に当てはめると、勝者はメダリストであり、敗者はメダルを獲得できなかった選手であろう。日本メディアは敗れ去った浅田真央をあれだけ大きく取り上げる。1回目の演技で大きく出遅れたあとの2回目で自己記録を出したところで、はたして価値があるのだろうか。昨季のナビスコカップ準決勝・柏レイソル戦を思い出してほしい。第1戦で大敗し、実質的な決着がついてしまった。マリノスは第2戦を見事に勝利したが、すべては後の祭りだった。今回のフィギュアもそれと同じではないか。あの状況で感動的な演技を見せてくれた選手にはもちろん敬意を払うが、残念ながら勝者ではない。

4-2-3-1_ACL『敗者の美学』のほとんどは、自らの信念やスタイルを貫いたからこその称賛と言い換えることもできる。敗れたが、やることはやった。持っている力を出しきった。そういった考えに基づいた発想かもしれない。語弊を恐れずにいえば、それは自己満足に近い。対戦相手がいるスポーツ、あるいは相対評価される競技において、自己満足はとても危険だ。だが、最も悲しいのはスタイルを貫かずに敗れ去った場合で、しかもわざわざ変化を加えた狙いが外れてしまったときだ。

9年ぶりにアジアの舞台に立ったマリノスは、アウェイであること、それが大事な初戦であることを踏まえて戦った。それを象徴していたのが樋口靖洋監督の選手起用である。右MFに三門雄大を起用したのは大きな驚きだった。彼はプレシーズンの段階ではそのポジションでほとんどテストされていない。今回の帯同メンバーであれば兵藤慎剛と藤本淳吾が競い合っていたポジションである。三門の抜擢について樋口監督は「守備の強化、アウェイの戦い方ということでの起用だった」と明かす。試合全体についても「全体的に我慢の時間をしのぎながらというのが狙い」と語った。

個人的には悪くない発想だと思っている。国際試合においてホームとアウェイの差は大きい。全北現代の選手やサポーターはそれほど反日感情を表に出してこなかったが、それでもスタジアムはやや異質な雰囲気に包まれていた。牧歌的なJリーグとは明らかに違う。全北現代は序盤から出足が良く、球際でファイトするチームだった。技術的に見るべきところはまったくなかったが、勝敗を左右するのは根本的に言えばメンタルなのだ。風上に立ったのは相手で「想定通り」(小林祐三)。中澤佑二は「驚くことはなかった」と涼しい顔で振り返った。

 

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そういった見立てができているのであれば、守備的な布陣で試合に臨むのは常套手段と言えよう。真っ向勝負で敗れても、それこそ敗者の美学でしかないのだから。ただし三門の起用はあまりにもギャンブル的な要素が大きかった。なぜプレシーズンの段階で試しておかなかったのか。彼自身はアルビレックス新潟時代に経験していたポジションだが、ほかの10人は三門のパフォーマンスが分からない。実際に攻撃面ではまったく浮いていた。堅実な樋口監督らしからぬ采配である。無謀な一手を前向きなチャレンジと捉えることは到底できない。ここは藤本よりも攻守に計算できる兵藤を起用するのがベターだったはずだ。

そして最大の問題は対戦相手の10番レオナルドを警戒していたにもかかわらず、その選手がベンチスタートだったという残念な事実である。チェ・ガンヒ監督の狙いなのか、コンディションが理由なのかは定かではないが、いずれにせよメンバー発表と同時にマリノスは肩透かしを食らった。結果論になるが、これなら三門を起用する意味はあまりない。相手監督にいっぱい食わされた格好だ。

過去2年間、自分が覚えている限りほとんどのゲームで信念を貫いてきた指揮官が、一時的にスタイルを放棄した。そうまでして勝ち点3、悪くても勝ち点1を狙った試合で惨敗を喫した。このショックは大きい。繰り返すが、状況に合わせた戦略を用いたのは正解だった。ただし、そうするならば徹底的にシミュレーションし、間違いがあってはならない。レオナルドのベンチスタートを少しでも予想していれば、三門の起用は選択肢から外れたはずだ。

同じ負けならスタイルを貫いたほうがよかったという考え方もあるだろうが、それには賛同しかねる。それこそ無策だ。状況を踏まえた上での最善策がある。全北現代とスコアほど力の差があったとは思わない。前半をスコアレスで終えたのも上出来で、これはJリーグでもよくある光景といえる。苦しければ、我慢して耐えればいい。そういった展開が予想できているのに攻撃的に出ろというのは、ただの暴論だ。

戦い方のスタンスは正しかった。が、その内容があまりにも拙かった。残念ながら指揮官の能力差が浮き彫りになった結果と言わざるをえない。大きな虚無感とともに韓国の地を去るのみである。

 

 

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