「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

開幕戦を白星発進なのに「やっと勝った」という気持ちになってしまう損な日程 (藤井雅彦) -1,479文字-

 

「ホッとしている」

樋口靖洋監督、あるいは榎本哲也が第一声で発した言葉である。富士ゼロックス・スーパーカップのサンフレッチェ広島戦、ACL第1節での全北現代戦と続けて完敗した。少なからず不安が先行し、開幕前から緊張感が走った。無得点で複数失点というスコアも追い打ちをかけた。過去2年で作り上げたベースがあると言えども、いきなりの連敗スタートを楽観視できる者はいなかった。だから、まずは勝ったことに安堵するのも当然だろう。

4-2-3-1_開幕 同時に、チームにベースが根付いていることを確認できたのもポジティブな材料だった。完敗した2試合ではマリノスらしさがまったく出せなかった。それは樋口監督が提唱する『主体性』である。攻撃は自分たちでボールを動かし、守備では積極的に奪いに出る。そういった基本的な動作がまったくできなかった。なぜなのか。新加入選手数名をスタメン起用しただけでベースは消えてしまうのか。その程度のものだったのか。フィジカルコンディションが上がっていないと分かっていても、不安ばかりが脳裏をよぎった。

しかし、すべては早計であった。なんのことはない、広島戦と全北現代戦でマリノスらしさを表現できなかったのは、相手チームの強度と性質が理由だった。広島は天皇杯決勝と違い、しっかりプレッシャーをかけてきた。全北現代は90分間フルパワーでプレスに注力した。細かな動作ではなく、迫力を持ったチェイシングでボールを奪う。それが狙いの根底にあった。いずれの試合もマリノスはプレスの餌食となり、何もさせてもらえなかった。相手に対して、自分たちの力量が不足していたと言わざるをえない。

 

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それが開幕戦の大宮アルディージャ戦では見違えるように先手を取れた。まるで全北現代戦の全北現代になったように、激しいプレッシャーで相手に何もさせない。昨季の好調時のようなアグレッシブな守備が蘇り、ボールを奪ってマイボールの時間を長くする。齋藤学が積極的な仕掛けからチャンスを作り、藤本淳吾が見事なシュートでゴールネットを揺らす。マリノスがマリノスらしいサッカーで前半45分間は完全に試合を支配した。安堵の理由である。

大宮4-2-3-1 それだけではない。試合終了間際には伊藤翔のゴールというオマケ付きである。利き足ではない左足であれだけインパクトの強いシュートはそうそう打てない。指揮官の采配次第では交代でベンチに下がっていても不思議ではない男がああしてゴールを決めるのだから、サッカーは分からないものだ。

開幕戦を白星発進したというのに、マリノス関係者は「やっと勝った」という気持ちになってしまうのだから損な日程である。まだ負け越しの気分でいるのは筆者だけだろうか。あるいは、それだけインパクトの強い敗戦だったということかもしれない。広島、そして全北現代。幸いにして両チームとの対戦はまだ残されている。大宮に完勝したことよりも、先日喫した2敗が脳裏に焼きついている。

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