「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

移籍と残留で揺れ動いた夏。 渡辺皓太の決断の正否が明らかになるのはシーズン終了後だ [J30節 横浜FC戦レビュー]

 

指揮官が渡辺をピッチに残していた理由

 

マルコス・ジュニオールは相変わらず落ち着いてPKを決め、前田大然の今季16点目とそれをアシストした扇原貴宏のパスも素晴らしかった。

しかし、この試合では渡辺皓太について語りたい。

 

 

リーグ戦での先発は5月30日以来、約4ヵ月ぶり。その期間には中断期間も含まれているため、14試合ぶりという数字以上に長いブランクがあった。

今週の練習公開日を見ても、強度の高い練習の中で存在が光っていた。それについては渡辺自身も「ゲーム体力という部分ではやってみないとわからない部分があるけど、場面場面では少ない時間でもとても良い状態でプレーできている感覚はある」と一定の手ごたえを感じ取っていた。

実際に、試合が始まってからも背番号26のアグレッシブさは際立っていた。

 

 

特に守備場面での出足が鋭く、中盤でのボディコンタクトを厭わずファイトする。ほんの少しでも相手がボールコントロールをミスしようものなら、一瞬の隙を見逃さずにボールを奪う。反応速度や迫力といった部分にモチベーションの高さを感じさせる好パフォーマンスだった。

だからこそ1枚目の警告はもったいなかった。球際の攻防でやや遅れたチャージを繰り返したことでイエローカードが提示されたのは14分のこと。前半の3分の1も終わっていない時間帯に自身のプレーを制限せざるをえない警告を受けたのは、この試合に懸ける思いが強いからこそ逆風に働いてしまう。

 

 

結果から言えば、ある程度の時間で交代させておけば2枚目の警告、つまり退場は避けられたかもしれない。早い時間帯に1枚目を受け、さらにタイトな試合展開だったからリスクは高まっていた。ならば警告を受けた選手をベンチに下げるのは当然の選択肢だが、ケヴィン・マスカット監督はそれを承知の上で渡辺をピッチに残していた。

なぜか。

特に攻撃面で彼にしかできないプレーがあったからだろう。3列目から攻撃にアクセントを加えられるキーマンで、先制を許したこともピッチに残しておきたい大きな理由だったはず。

 

 

後半開始間もない48分、最終ラインのチアゴ・マルチンスから縦パスをピックアップした渡辺は、見事なターンから前を向いてドリブルを開始。そのまま40メートルほど持ち運んでアタッキングエリアまで侵入し、右サイドへ展開したことで最後はマルコスのバー直撃シュートの惜しいシーンが生まれた。同じプレーを扇原や喜田拓也はできない。

そもそも、である。気配りができて、リスク管理に長けるキャプテンの喜田をわざわざベンチスタートにした。一方で、ブランクのためゲーム体力に不安があり、心身ともに前のめりになってしまう可能性のある選手を先発させた。チームに刺激を加えたかったのは容易に想像できる。

 

 

意図すべてを指揮官が言葉で語ったわけではないが、そこにあったのは間違いなく渡辺への期待であり、信頼だった。

 

いばらの道は、まだ終わっていない

 

「1試合1試合が最後だと思っている」

 試合前日の囲み取材で渡辺はこう語った。

決して大袈裟ではなく、本当に人生を懸けた大一番だったのかもしれない。首を長くして待ったチャンスがようやく訪れた。この試合で何を見せられるか。本当の意味でマリノスに必要な選手になるためにも、サッカー人生における分岐点となる試合だった。

 

 

ピッチに立つことを最優先にするのであれば、夏の移籍市場で選択肢があった。

8月に入った頃、渡辺の下にオファーが届いた。

J1のサガン鳥栖からのラブコールだった。

 

ヨコエク

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