「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

だが、事故で2点は入らない [J12節広島戦レビュー] (藤井雅彦) -1,938文字-

サッカーの論評を見ると「事故のような失点」という表記をたまに目にするが、それに賛同しようとは思わない。言うなれば、失点なんてすべて事故の類なのだ。どこかでほとんど必ずミスが絡んでいる。どんなに細かいことだとしても、ピッチにいる22人全員にまったく落ち度のない失点など、まずありえない。だから失点はすべてが事故で、偶然で、同時に必然なのだ。

4-3-2-1_後半戦 サンフレッチェ広島戦における失点は、たしかに珍しい形だった。相手のアバウトなクロスボールを守備力に長ける小林祐三があのエリアにクリアするなんて、年間に一度あるかないか。今シーズン二度と出ないプレーであることを考えれば、たしかに事故かもしれない。とはいえ、これは相手が強引にでもボールを入れてきたからであり、さらに言えば得点者の石原直樹が抜け目なく狙っていたから生まれた得点なのだ。あの位置にいたのが石原でなければ、おそらくは誰の記憶にも残らないワンプレーで終わっていただろう。

同じように、マリノスのゴールにも理由がある。選手たちに取材すると「広島は覇気がなかった」(栗原勇蔵)、「相手が明らかに足が止まっていた」(小林)といった答えが多かった。それも大きな要因なのだろう。あるいは広島は1点をリードして迎えた終盤に、甘さをのぞかせたのかもしれない。どうやら心身ともに隙があった可能性は高く、それを全否定できるならば事故という結論なのかもしれない。だが、事故で2点は入らない。

試合最終盤の2ゴールは、マリノスがリスクを冒したから生まれた。具体的に、そして端的に言えば、リスクとはボールを失うことを意味する。相手からのプレッシャーを受けにくい自陣エリアで、しかも足元でボールをつないでいればマイボールを失う確率は低いが、一方で相手ゴールは遠いまま。したがって、その逆のプレーがリスクであり、ゴールへの可能性となる。あの時間帯はマリノスはなりふり構わず相手のペナルティエリア内にボールを放り込んだ。

 
下バナー

 

齋藤学の同点ゴールを振り返ってほしい。小林はほとんどエリア内の状況を確認せず、アバウトにボールを送った。そこに結果的に齋藤がいた。トラップ&反転ボレーは素晴らしい技術で、これは昨年のアウェイ浦和レッズ戦のゴールに似ている。あのときも小林のアバウトクロスを齋藤が見事なトラップ&シュートで仕留めた。少し強引にボールを放り込まなければ決して生まれなかった。

3-4-2-1広島決勝点も同様である。GK榎本哲也のフィードに栗原が競り勝ち、そこに端戸仁が絡む。さらに齋藤がボールに詰め寄り、最後は伊藤翔のところに幸運が転がってきた。美しいパス回しとは無縁でも、一つのボールにこれだけの選手が関与している。だからこそ広島守備陣を攻略できた。必然とまで言わなくても、それなりに理由がある逆転劇だった。

結果は最良である。この勝利によって中断明けの巻き返しがスタートし、優勝争いに絡むことも夢ではなくなった。約2ヶ月の中断明けの再開初戦の価値はそれほど大きいのだ。単純に、勝って中3日でアウェイのセレッソ大阪戦を迎えるのと、その逆では大きな違いがある。状況を好転させるのは、いつだって結果だ。

それなのに、試合後の選手たちに笑顔は少なかった。とりわけ守備陣のほとんどが浮かない表情で足取り重くバスに乗り込んだ。栗原曰く「チーム全体としてオフに入る前から何も変わっていない。反省も課題も多い。今日はたまたま勝ったと思ったほうがいい」。バッサリと切り捨てるあたり彼らしいが、チームが抱えている問題は想像以上に深刻で、おそらく根深い。

周囲の期待に反して、マリノスは中断前とあまり変わっていないことを露呈した。昨シーズンの中断期と違い、それを良しとするような成績でも状況でもない。何かを変えようとしなければ、この日の勝利も一過性でしかなく、長続きはしないだろう。もちろん栗原の言う「たまたま勝った」が勢いになり、チーム力に結実していく可能性もなくはない。だが、それを期待するには、あまりにも空虚すぎる89分間だった。

 

 

 

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ