「引退する報告を発表前に(栗原)勇蔵くんにしました。その後、担当スタッフが自分と連絡を取りたがっているという話を勇蔵くんから聞いて『マリノスに戻ってこないか』と」 [兵藤慎剛インタビュー(前編)]
トリコロールを纏った男たち
【兵藤慎剛インタビュー(前編)】
インタビュー・文:藤井 雅彦
取材日:4月11日(月)
兵藤慎剛がヨコハマ・エクスプレスに久々登場だ。
2008年から2016年まで9年間在籍し、J1リーグ268試合に出場した中盤のマルチロール。
シーズン平均29.7試合出場(全34試合)という数字が示すとおり、マリノスの中盤にいない場面はほとんどなかった。
そんな彼が15年間のプロ生活にピリオドを打ち、セカンドキャリアをスタートさせる。
サッカーを愛しているからこそ、異なる角度からサッカーを考える。
ピッチ内同様に柔軟な発想で、新たなカタチを模索していく。
たぶんサッカーだけを本気でやりたくなってしまうんです、僕は(笑)。サッカーが好きだから
――2月5日、14年間の現役生活に別れを告げました。いまの心境を聞かせてください。
「スッキリした気持ちで次のステージへ進んでいます。プロサッカー選手は需要と供給で成り立っていて、必要とされているからプロとしてやっていけるし、自分自身ここまでやってくることができました。約1年前、ベガルタ仙台を契約満了になってから半年以上も所属先が見つからず、8月にSC相模原に拾ってもらいました。そこからの半年弱は、覚悟を決めて時間を過ごしました。そして今年の1月31日にプロ契約が切れて、プロサッカー選手としての時間は終わりなんだろうと感じました。まだまだやれる自信はありましたが、年齢や新型コロナウイルスによる影響は避けられないですし、2年連続で同じような立場になった自分には、状況を変えるような実力がなかったと受け止めています」
――昨今は、Jリーグではないカテゴリーでサッカーと社会人を両立する選手も増えています。そういった選択肢はなかったのですか?
「プロサッカー選手として築き上げてきたキャリアを企業が評価してくれるのは、プロサッカー選手としてだけでなくJリーグの価値でもあるので素晴らしいこと。パンゾー(小林祐三/元・クリアソン新宿)や裕介(田中裕介/SHIBUYA CITY FC)の形はお互いにメリットがありますよね。客観的には、本当にいいことだと思います。サッカーしか知らない元プロ選手が社会を学ぶ上でとてもありがたいですし、アスリートに必ず訪れるセカンドキャリアに対して企業が報酬を払ってくれるわけですから。次の一歩目を踏み出す準備期間としても最高だと思います。それはアスリートとして、プロサッカー選手として価値がないと生まれない。ただ、僕の中ではちょっと違ったんです」
――詳しく聞かせてもらえますか?
「僕の場合、そんなに器用なタイプではないので、サッカーばかりに集中してしまうと思うんです。例えば夕方まで仕事をして、ナイター照明で練習する生活や、その反対で午前中に練習して、午後から出社する生活ができるのか考えました。たぶんサッカーだけを本気でやりたくなってしまうんです、僕は(苦笑)。サッカーが好きだから。仕事よりもサッカーに比重を置いてしまえば、やっぱりバランスが悪くなる部分も出てくるでしょう。だからプレーヤーとしてお金をもらう生活には区切りをつけて、次のステップへ進もうと決意しました」
――引退後のビジョンや決まっていることがあれば聞かせてください。
「引退して1~2年は勉強の時期と考えています。僕は子どもの頃からサッカー選手になるために努力してきました。でも、サッカー以外はできません。サッカー以外の努力をしていないのに、サッカー以外でお金を稼ぐことはできないでしょう。サッカーとサッカー界しか知らないので、もっと広い世界を見てみたいという思いもありました。そういった経験を結果としてサッカー界に還元できる部分もあると思います。ビジネスや組織を知ることは、人生において絶対的にプラスになるはずですから」
――サッカーから離れるわけではないのですね?
「サッカーに育ててもらいましたし、切っても切れない縁があると思っています。何よりもサッカー界に恩返ししたい気持ちや、スポーツを通した教育にも興味があります。地元の長崎や関わってきた学校やクラブにも恩返ししたい。いろいろな知識や経験、スキルを身につけるためには勉強が必要で、引退してからの2年間くらいは地道な努力を重ねたいと考えています」
――例えば指導者になる道が完全になくなったわけではない?
「ひとまず昨年末までにJFA公認B級ライセンスを受講して、合格通知を4月にもらい、5月からライセンスが発行されます。将来的に指導者になるにしても、いろいろな世界を知っておくことは無駄ではありません。監督やコーチには勝利するための戦術指導だけでなく、雰囲気作りやモチベーションといったマネジメントが欠かせない。それは一般社会と別物ではありませんよね」
――いわゆるフリーランスですね?
「そうです。自分から動かない限りは1円も生み出せません。でも動けば動くほど可能性は広がると思います。フリーが一番難しい。サッカーでもある程度の約束事があるフリーはいいけど、本当の“どフリー”ですから(笑)」
自分のような形もあることを示せれば、これからのマリノスファミリーの発展にもつながっていく
――セカンドキャリアをさまざまな形でスタートさせる中で、定期的にマリノスにも関わることになったそうですね。どのような経緯から実現したのでしょうか?
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