「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

苦しみ抜いたACLを経験したマリノスが、アジア制覇を目指す過程でこれからどんな成長を見せてくれるか [舩木渉寄稿:ACLグループリーグ総括]

 

このままキーボードを打ち続けたら1万字を超えてしまいそうだ。舩木渉がベトナムで見たモノ

 

長いようで短い、ベトナムでのAFCチャンピオンズリーグ(ACL)グループステージが終わった。

横浜F・マリノスは16日間で6試合という超過密日程を乗り越え、4勝1分1敗。勝ち点13でグループHの首位で決勝トーナメント進出を果たした。大きなけが人もなく、チームとしてこれ以上ない成果を携えて日本へ帰ることができた。

「選手たちがどういう風にベストコンディションでやっていけるのかを頭に入れながら、スタッフやコーチ陣が選手たちをしっかりと回復させ、みんなでピッチに立てるように努力してきた。そして、日々、試合ごとに成長を続けてきた。

このベトナムの地で、いつもとは違った環境、気候の中でもマリノスのアイデンティティを信じて選手たちがピッチで表現してくれたと思う。グループステージを終えて、みんなを本当に称えてあげたいと思っているし、本当に素晴らしいサッカーを見せてくれたと思う」

 ケヴィン・マスカット監督はグループステージ最終節の全北現代モータース戦を引き分けで終えた後の記者会見で、チーム全員の健闘を手放しで称えた。期間中ずっと「私は選手たち全員のことを信じている」と言い続けてきた指揮官の嘘偽りない思いだった。

 

©Y.F.M

 

その言葉の通り、マリノスはほぼ2チーム体制でグループステージを戦った。直前の試合から先発のフィールドプレーヤー全員を入れ替えて臨んだ試合もあったほど。マスカット監督からの信頼は、6試合を通してチームの総合力に対する確信へ変わっていったことだろう。

ベトナム遠征に帯同したフィールドプレーヤー26人のうち、一度もピッチに立たなかったのは3人だけ。同じグループの中でマリノスほど多くの選手を起用したチームは他に1つもなかった。

誰が出てもマリノスのサッカーを体現できることを、言葉だけでなく結果で証明したのである。総合力で遜色ないチームを、1クラブが2つ作ることは決して簡単ではない。むしろ至難の業と言える部類に入る。

決勝トーナメント進出という目標を達成する過程において、短期間で成長を求めなければならない部分もあっただろう。特に経験の浅い若手選手たちがどれだけチーム力を底上げできるかは重要な要素の1つだった。

自らを「チームを引っ張らなければいけない立場」と自覚し、グループステージ4試合に先発出場したDF小池龍太はベトナムでの戦いを終えて次のように語る。

「この大会を通じて、継続力のところは自分たちの力になったかなと思います。それはサッカーをやり続けることだったり、1人ひとりの選手が準備し続けること、スタッフ含め支えてくれる人たちが、支えることを継続したこと。それがチーム力ですし、マリノスの強さかなと。

もしかしたら(試合に)出る時間やチームに貢献できる量は違うかもしれないですけど、柱となる、中心となる選手を見て、若手ももっと学んでほしいですし、こういう大会を若いうちに経験できた彼らにも、継続する力は感じてもらえたのかなと思います」

 

©Y.F.M

 

ターンオーバー制を敷いていることで「次の試合はおやすみ」「次は出ないだろう」ではなく、全員が「次も出てチームに貢献する」ための準備に全力を注ぎ続ける。中2日で体がキツかろうと先発出場するためにやれることを全てやる、あるいは短時間でもその中で100%に近いプレーを表現できるよう準備を尽くす。

約3週間におよんだ合宿生活の中で、「中心となる選手」の妥協のない姿勢や行動を目の当たりにして若い選手たちの意識は少なからず変わったに違いない。そして、それに必死に食らいついていき、ピッチ上のパフォーマンスで自分たちの「やるべきこと」や「向き合わなければならないこと」が明確になったのではないだろうか。

シーズン中に今回のACLグループステージのような短期集中開催の大会が挟まってくることは珍しく、公式戦をこなしながら合宿生活を送れる機会は貴重だ。毎日の練習でしか顔を合わせなかった先輩たちと寝食を共にしながら過酷な戦いに臨む。濃厚な経験がクラブの未来を担う若者たちの成長の糧となる。

 

 

藤田は、ベトナムでの経験を次につなげるための道筋を見出していた

 

20歳の藤田譲瑠チマは「気候的にも環境的にもすごく厳しいものにはなりましたけど、こうやって全員が試合に絡んで、総力戦ということを味わえたし、チーム一体とならなければ厳しいような大会だった」と初参戦となったACLグループステージを振り返る。

 

©Y.F.M

 

「普段味わえない世界の選手たちの身体能力の違いを感じることができましたし、自分自身、代表でも同じような期間での大会が5月下旬から6月中旬まであるので、ここでの経験を代表選手たちにも伝えることができるし、自分の中でも覚悟を持ってその大会に挑める。本当にこの大会は自分にとって大きいものだったなと思います」

 約1ヶ月後にU-21日本代表としてAFC U-23アジアカップに出場する可能性がある藤田は、ベトナムでの経験を次につなげるための道筋を見出していた。

 

 

これまで途中出場が多く、試合の終盤に流れを変える役割を担って存在感を発揮していた藤田はACLで大きな成長を見せた選手の1人だ。課題は先発出場する試合も含め、パフォーマンスのアベレージを上げていくことだった。

そんな中で最終節の全北現代戦で先発出場のチャンスを得ると、序盤にアンデルソン・ロペスの先制ゴールをアシスト。交代する64分まで抜群の読みを生かしたボール奪取やピッチを縦横無尽に駆け回る運動量、インテリジェンス溢れるパスさばきでマリノスの中盤を巧みにコントロールした。

 

©Y.F.M

 

そのうえで「今日のインテンシティを90分保ち続けることができれば、自分以外のところで交代枠を使うことができる。そういうオプションに自分がなれれば、もっと試合に絡める」と藤田は語る。次のステップは明確になった。

 

 

ACL初先発を飾った18歳は、ベテランかと見間違えるほどの落ち着いたプレー

 

高卒ルーキーの山根陸にも大いに驚かされた。グループステージ第4節のシドニーFC戦でACL初先発を飾った18歳は、ベテランかと見間違えるほどの落ち着いたプレーで3-0の大勝に貢献。藤田に代わって途中出場した最終節の全北現代戦では、終盤にかけてチームの中心として堂々とゲームをコントロールして見せた。

 

 

 

ヨコエク

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