「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

2年半かけて築いてきたスタイルは、いったいどこへ行ってしまったのか [J24節鹿島戦レビュー] 藤井雅彦 -1,544文字-

 

何もない試合だった。

4-3-2-1_三門まずは、勝ち点ゼロに終わったことから。結果として鹿島アントラーズを上回れずにアウェイの地で醜態を晒した。相手は前回対戦時よりも組織として洗練され、若手選手もそれぞれ自信をつけていた。日本代表の柴崎岳はこれまでの対戦時同様に存在感稀薄だったが、トップ下の土居聖真はアシスト場面に象徴されるように鹿島攻撃陣をけん引する選手へと成長を遂げていた。マリノスにそういった選手が見当たらないのとは対照的である。

次に、得点ゼロに終わったこと。それどころかシュートすらゼロに終わった。公式記録によるとマリノスは前後半で1本のシュートを放ったことになっているが、これは後半ロスタイムの96分に中村俊輔が直接FKを壁にぶち当てたものである。中村本人に言わせると「あれは1本じゃないだろ」という類である。マリノスは記録員によって不名誉な記録を寸前で逃れた。
その結果、収穫はゼロに終わった。そもそもマリノスはどのような戦略を用いて鹿島戦に臨んでいたのか。低調に終わった前節の名古屋グランパス戦を終えて、樋口靖洋監督は「アグレッシブさを出さないといけない」と話し、鹿島に向かった。人選からもその意図は読み取れた。ボランチに三門雄大、右SBに奈良輪雄太を起用したのは、彼らのエネルギッシュなプレーを期待したからだろう。チームとしてもスタイルである前線からのプレスに軸足を置く予定だった。

 

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それなのに蓋を開けてみれば、攻守ともにまったく前に走らないではないか。「消化不良に終わった」とは先発した三門のコメントである。彼自身は前からボールを奪いに走りたかったようだが、チーム全体で動かなければ意味がない。三門単体でプレスに行っても、かわされて逆襲を食らうのが関の山だ。三門だけを擁護するつもりは毛頭なく、かといってほかの10人に責任を負わせるつもりもない。それよりもチームを方向付けできなかった指揮官の責任は重い。

鹿島4-2-3-1リーグ戦3連勝中、中村は我慢して前線でプレーしていた。本人としては不本意ながら、前にとどまることで1トップの選手は助かっていた。これはラフィーニャに限った話ではなく、伊藤翔や矢島卓郎、藤田祥史が起用された場合も当てはまる。それが名古屋戦の敗戦を経て、鹿島戦では以前のように低い位置に下がってしまった。ボールを触りたい性格で、それが持ち味だからである。中村個人のパフォーマンスだけを決めるならば、前線でハイボールを競り合うのはたしかに得策ではないだろう。

だから、中村が前でプレーするのは、あくまでチームのためである。それを指示し、プレーエリアを制限できるのは、樋口監督しかいない。中村に自由を与えるのならば、前線からのハイプレスや三門の起用はほとんど無意味だ。むしろ中村のプレースタイルに合わせられる選手の組み合わせを試すべきかもしれない。

樋口監督が2年半かけて築いてきたスタイルは、いったいどこへ行ってしまったのか。出場する選手なりの戦いしかできないのなら、采配で流れを変えられない監督などいる意味がない。この敗戦は、ただの敗戦ではない。

 

 

 

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