「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

中村はいなくても、マリノスには藤本淳吾がいる [J26節甲府戦プレビュー] 藤井雅彦 -1,908文字-

 

甲府3-4-2-1ヴァンフォーレ甲府はスタイルを確立しているチームだ。システム表記こそ[3-4-2-1]だが、守備時は両ウイングバックが最終ラインまで下がり、2シャドーの選手もスペースを埋める。相手にボールを持たれる時間が長いことを考えると、[5-4-1]で過ごす時間のほうが長い。それを良しとして、守備に軸足を置いて残留を勝ち取るつもりだ。

前回の対戦同様、おそらくマリノスはボールを持てる。しかし攻めあぐねるのも容易に想像できる。ブロックの中に入り込めず、外でのボール回しで時間ばかりが過ぎていく。遠目からシュートを打てず、高い位置をえぐることも難しい。するとCKを獲得できない。唯一、齋藤学の個人技がセットプレーを獲得する手段だが、最近の調子は芳しくない。そうこうしている間に、ミスからボールを奪われ、カウンターで失点する。これが最悪なパターンである。

だから、退屈な90分を受け入れることから始めよう。もちろん樋口靖洋監督は「(甲府が)下がるなら下がればいい。それでもウチはゴールを目指す」と強気な姿勢を主張している。前節同様に「アグレッシブさをどれだけ出せるか」とポイントを語る。スタメンの人選もその意向を反映し、体調不良で欠場する中村俊輔のポジションにはランニングで攻撃を活性化できる佐藤優平か、あるいはシステムを2トップに変更して前に人数をかけるかもしれない。

 

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4-3-2-1_藤本しかし、いまのマリノスにできるのはそこまでだ。なんとなく前線の人数を増やす、あるいは人を変更するだけで、具体的な崩しのプランに欠ける。ポゼッション時に崩しのキーマンになるであろう兵藤慎剛は「相手の後ろは5枚いるけど、だからこそ人任せになる瞬間がある。そのときに縦パスが入って前を向いて、そこにサポートが来ればチャンスになる」と狙いを明かす。とはいえ、そんな練習は一切していない。しかも前線の組み合わせは、中村不在で新しいユニットになる。一朝一夕で甲府の堅い守備を崩せるとは思えない。

ミス絡みで先制できれば試合を圧倒的優位に進められるのだが、こればかりは蓋を開けてみないと分からない。ミスを誘発させるためにアグレッシブにプレスをかけるのは手段の一つとはいえ、隙を与えれば相手の前線にいる外国籍選手に手痛い一発を食らうリスクもある。早い時間に先制できなければ、時間経過とともに膠着度は増す。「間違いなく難しい試合」(榎本哲也)である。

回数こそ期待できないが、精度を期待できるのがセットプレーだろう。中村はいなくても、マリノスには藤本淳吾がいるではないか。樋口監督は「セットプレーを蹴れる選手は何人かいる」と余裕を振りまいたが、それは大きな間違いだ。リスタートのキッカーは限られている。蹴るだけなら、誰だって蹴れる。ピンポイントで合わせることが難しい。

リーグ屈指のキッカーをピッチに置いておくことが、マリノスに勝ち点3を近づける最短距離である。

 

 

【この試合のキーマン】
MF 25 藤本 淳吾

 正直、スタメンかどうかは微妙なところ。前節のサンフレッチェ広島戦では、中村俊輔とハーフタイムに交代したのは佐藤優平だった。試合展開や相手の性質があるとはいえ、佐藤のパフォーマンスが効果的だったのは事実。それを素直に評価するならば、ヴァンフォーレ甲府戦の先発は藤本ではないのかもしれない。

 だが、あえて藤本に期待したい。そもそも中村不在時も想定して獲得した選手である。リスタートのキッカーとしても重要な役割を果たさなければならない。何より、今シーズンはまだ何もしていない。移籍1年目という難しさはあるにせよ、ポテンシャルと期待値を考えたときに、ここまでの成果はあまりにも少ない。

 中村との共存は難しい部分もあるだろう。だから、いない間に存在感を見せる必要がある。それでも何もできないのならば、チームに居場所がなくなってしまう。藤本にとっては正念場であり、踏ん張りどころ。鬼気迫る表情を見せられるか。

 

 

 

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