「ザ・ヨコハマ・エクスプレス」藤井雅彦責任編集:ヨコハマ・フットボール・マガジン

中盤の底が機能しなければ、マリノスに初勝利は訪れない [J3節鳥栖戦プレビュー] 藤井雅彦 -1,846文字-

開幕戦の川崎フロンターレ戦でダブルボランチを組んだのは富澤清太郎と中町公祐だった。彼らが最も輝いたのは優勝争いを演じた一昨年の2013年、あるいはコンビ形成から間もない2012年終盤だった。トップ下の中村俊輔が輝き、中村俊輔を輝かせた。恒星は中村だけでなく、富澤であり中町だった。それぞれが絶妙な補完関係で成り立ち、マリノスの強さの源泉になっていた。

4-3-2-1_2015 昨季途中以降、中村がコンディション不良などもあってパフォーマンスを落とすと、次第にダブルボランチの存在感も薄れていく。彼ら自身の状態にも問題はあったが、やはりチームやユニットとしての良さを出しきれなかった印象が強い。そして今季の開幕戦、中村が負傷欠場すると、またしても彼らは良さを出せずに終わった。

今回は中村不在だけが原因ではない。今季、マリノスはエリク・モンバエルツ監督の下でやや守備エリアを下げたブロック守備にトライしている。少なくとも高い位置から能動的にボールを奪いに走るスタイルではなくなった。思い返せば、富澤や中町が輝いたのは前線にいたマルキーニョスや中村がスイッチ役として相手のパスコースを限定したときで、前向きに狙いを定めたときの彼ら二人は抜群のボール奪取能力を発揮する。しかし、ブロックを作るのでは持ち味を発揮しきれない。特に中町はそういった類の選手である。

第2節は、富澤ではなくファビオがボランチに入った。ファビオの良さはなんといっても無理が利くことである。少々厳しい体勢からでも身体能力を生かしてボールを奪える。リーチの長さと跳躍力を駆使して、防波堤になれる。戦術理解度はお世辞にも高いとはいえないが、個人レベルでわかりやすい特徴を持ったボランチのほうがプレーしやすい環境なのかもしれない。FC東京戦でのファビオのプレーは及第点以上で、ファーストボランチの座をほぼ手中に収めた。

 

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鳥栖4-2-3-1そしてサガン鳥栖との第3節は、三門雄大が先発でファビオとコンビを組むことになりそうだ。三門は途中出場したFC東京で思い切りの良いボール奪取からカウンターでチャンスを作った。さらに水曜日のナビスコカップ仙台戦でも同じようにインターセプトから攻撃の起点となり、評価を高めた格好だ。三門自身は「監督が求めることを理解しつつも、自分の良さである球際の強さやボールを奪ってから攻撃につなげるプレーを出していきたい」と意気込みを語る。これこそ戦術の上に個性を乗せる姿勢であろう。ほかのどの選手よりも三門はプロフットボーラーらしく道を歩んでおり、このタイミングでスタメン起用するモンバエルツ監督の眼力は確かだ。

相手が高さと強さに優れる鳥栖であることも、彼らのコンビ結成を歓迎すべき理由の一つである。ファビオは中澤佑二や栗原勇蔵とともに豊田陽平を封じなければならず、三門はセカンドボール争いで先手を取りたい。ここまで持ち味を生かしきれていない富澤と中町ではなく、彼らが起用される理由がある。今後、前線に中村俊輔やラフィーニャが復帰すれば兵藤慎剛もボランチの候補になるはず。その中で誰が定位置を確保するか。

ファビオと三門のパフォーマンスは、マリノスの勝敗にも直結する。中盤の底が機能しなければ、マリノスに初勝利は訪れない。

 

 

【この試合のキーマン】
MF 11 齋藤 学

 今回もキーマンの多い試合だが、ここでは齋藤学を推挙したい。サイドではなく中央でプレーするようになって4試合目。ナビスコカップ・仙台戦ではトップ下の位置からドリブルで果敢に仕掛けた。あらためて最前線ではなく少し下がった位置が威力を発揮するポジションであることを証明した。
ただ、今回のポジションもおそらくチームの先頭だろう。アデミウソンは下がってボールを受けたいタイプで、指揮官は前線の選手に裏を狙う動きを要求する。自身以外の要素を加味して考えたとき、おそらく齋藤は1トップの位置でボールを待つことになる。
いかにしてボールを引き出し、周囲の押し上げを促せるか。特にアデミウソンをもう一度高い位置に迎え入れるためのタメを作らなければいけない。すると仕掛けるドリブルよりも運ぶドリブルが多くなるかもしれないが、いまのチーム事情では仕方ない部分もあるだろう。
あるいはカウンターで一騎当千を狙うか。FC東京戦では長い距離をドリブルしてチャンスを作り出した。フィニッシュ精度が向上したわけではないが、入るときは入る。今季初勝利を演出するのは背番号11だ。

 

 

 

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